石川直樹

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ⒸNAOKI ISHIKAWA

THE HIMALAYAS

極地のテントをも住まいとする
写真家の旅。別世界へ誘う、
ヒマラヤ山脈の絶景を所有する。

 理想の家とは?と問われ「雨風さえしのげれば、そこが僕の居心地のいい家」と答えた石川直樹さん。その言葉から、巨大なアイスフォールのほとりに張られた小さなテントや、漆黒の洋上で、生き抜くための最低限の装備と、愛機のプラウベルマキナ670を抱えてひとり眠る石川さんの姿が浮かんだ。
 2001年に7大陸最高峰登頂の最年少記録を更新し、2度にわたってエベレスト登頂を成し遂げたその超人的な軌跡は、これまで多くの展覧会や写真集を通して、私たちの日常に“窓”のような存在としてひらかれてきた。なかでもヒマラヤへの登山遠征は、石川さんのライフワークだ。
 SEKISUI HOUSE meets ARTISTSは、2022年の初夏からはじまる石川さんの旅「THE HIMALAYAS」に併走する。行き先は標高世界7位の高峰ダウラギリと、チベット語で“偉大な雪の5つの宝庫”を意味する世界3位の高峰カンチェンジュンガ。そして、もっとも危険だとされる山、K2への2度目の登頂を目指す旅になる。
 パンデミックが世界を覆い“ここではない何処か”を求める長旅が困難になるなか、石川さんの眼差しは、私たちにとって遠く、稀有なものになっていく。その静謐で美しい8,000メートル級の山々の写真は、酸素濃度が地上の3分1しかなく人間が生存できないデスゾーン(死の領域)で撮影されている。探究者の強靭な意思と身体があって、はじめて私たちに届けられる風景なのだ。
 この旅で撮影される写真を、石川さんが自らに解説するスライドショーでお届けする。あなたが自宅に掲げる “山”は、このとき「THE HIMALAYAS」から東京に降りたばかりのスライドからセレクト可能。
 石川さんが写したヒマラヤの写真、すなわち“人間が足で到達できる、もっとも高い窓”が私たちの日常空間で開かれるとき、それ以前/以後できっと世界の捉え方は変わってしまうに違いない。

宮本武典(SEKISUI HOUSE meets ARTISTS キュレーター)

DETAIL & HOW TO ORDER

石川直樹

「THE HIMALAYAS」

サイズ・素材:
Large H1490×W1200mm
small-a H730×W900mm
small-b H900×W730mm
タイプCプリント、アルミマウント加工、木製額(メープル材、ホワイトウォッシュ加工)
価格:Large 1,221,000円(税込)
small-a 616,000円(税込)
small-b 616,000円(税込)
納期:約2ヶ月
※作品の購入受付開始は2月下旬を予定しております。

2022年に石川直樹さんがヒマラヤへの旅で撮影した写真から、オーナー様が希望する一枚を受注販売するプロジェクトです。旅から帰国した石川さんによるスライドショーをSUMUFUMU TERRACEで実施し、そこで解説される「THE HIMALAYAS」の写真から、自宅に掲げる山を直接オーダー可能。アーティストの旅とつながる“絶景の窓“がひらかれます。
※展示中の写真もご購入可能です。

PROFILE

石川直樹 Naoki Ishikawa

1977年東京生まれ。写真家。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。2008年『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞。2011年『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。2020年『EVEREST』(CCCメディアハウス)、『まれびと』(小学館)により日本写真協会賞作家賞を受賞した。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。2016年に水戸芸術館ではじまった大規模な個展『この星の光の地図を写す』が、新潟市美術館、市原湖畔美術館、高知県立美術館、北九州市立美術館、東京オペラシティ アートギャラリーに巡回。同名の写真集も刊行された。最新刊に『シェルパの友だちに会いにいく』(青土社)、コロナ禍の東京・渋谷を撮影した『STREETS ARE MINE』(大和書房)など。

  • 『POLAR』
    2007年
    『POLAR』 リトルモア
  • 『CORONA』
    2010年
    『CORONA』 青土社
  • 『まれびと』
    2019年
    『まれびと』 小学館 より
INTERVIEW
02
石川直樹
写真家

「ヒマラヤでは、生きていくことの
一挙一動を意識する」

ヒマラヤへ登りはじめたのはいつからですか?

石川直樹(以下、石川) 2001年にはじめてチベット側からエベレストに登ったあとに10年休んで、2011年から毎年のように登っています。プレモンスーンの季節で晴天が続く春に行くことが多いので、3〜5月になると「ヒマラヤの季節だなあ」と毎年思うんですよね。

毎回過酷な登山だと思いますが、それでも通う理由や自身を駆り立てるものとは?

石川 約2ヶ月のヒマラヤ遠征では、生きていくことの一挙一動を意識しながら過ごしています。その期間を経ると、自分自身の中身が入れ替わるような感覚になる。そうすると、溜まった澱が洗い流されるように、また1年を健やかに過ごせるような気持ちになれます。そんな風に1年間のリズムを作っていたのがヒマラヤへの遠征でした。登山では、頂上に立つことも区切りとして大切ではありますが、僕にとっては標高5000メートル以上の高所で2ヶ月間過ごすという体験がとても重要で、それによって自分の体が変わっていく感覚が好きなんです。ヒマラヤは本当に面白い。どんなに苦しくても楽しいのほうが少しだけ上回ります。

私たちには想像も及ばない、垂直方向に移動する旅だと思うのですが、面白さや楽しさはどこに感じていますか。

石川 一緒に登るシェルパたちとは、自分の弱い部分も全てをつまびらかにして、生死に関わる体験をともにしながら、オフの時には家に遊びに行ったりして付き合っていくと、本当の意味での信頼関係ができる。彼らに毎年会いたいなあ、と思うんです。あとは、山の標高がどんどん上がって自分の身体が変化していくプロセスは、水平の道を移動する旅では体験できない。日常とはまったく違う時間が、僕にとってとても面白いし、楽しいんです。

石川さんの写真集を見ると、登っていく過程の体験も含めたドキュメントになっていると感じます。どんな時にシャッターを切るのでしょうか。

石川 山の麓に暮らす人々の生活風景から始まって、順応不可能な8,000メートルの頂に至るそのプロセスを撮影していきます。シャッターを切るのは、自分の体が反応した時。その撮り方は登りはじめた時からほとんど変わっていません。山の上の方に行くと、文字を書いたりするのも億劫になるのですが、写真はカメラさえ持っていければシャッターを切れる。言葉になる以前の風景を撮ろうと思いながら、写真を撮り続けてきました。どんな時も、カメラだけは携えて。

コロナ禍を経て、今年は久々に海外への登山の準備をされていますね。

石川 何もなければ3月末から行きたいと考えています。ネパールの「ダウラギリ」と、昔から登りたいと思っていたインドで3番目に高い「カンチェンジュンガ」という山へ行こうと思っていて。夏頃に「K2」へも登りたいと考えていますが、春の遠征から帰ってきてみないとまだ分からないですね。2年も長旅をしてなかったので、旅に出たいという気持ちも強いですが、何よりまたシェルパ達に会って、彼らの現在を知りたいです。生涯をかけて付き合っていきたいと思いますし、これからもヒマラヤにはライフワークとして通い続けようと思っています。

暮らしの中心が旅である石川さんにとって家とはどんな存在ですか。

石川 僕は、家に対して愛着がすごくあるかというと、そこまでじゃない。旅先で雨風をしのげて落ち着ける場所があれば、そこが自分のホームという感覚です。例えばテントは究極の家で、遠征ではいつも45日間くらい連続してテント生活をしていますが、快適です。8,000mの頂からベースキャンプに帰ってくると、本当にほっとしますよ。どんな場所でも、自分にとって安心できる場所を作ることができます。

帰ってこられたタイミングで、撮影された写真を見せていただきながらお話を伺う会を開きたいと思っています。

石川 ぜひ。撮影してきたばかりの写真をお見せしながら、体験してきたことについて話をするのは、自分の旅を整理する上でも大切なんです。

現地で石川さんが撮影された写真を通して、見る方にどんな体験をしてほしいと考えていますか?

石川 まず僕の実体験があって、そこで見たものが写真に写っている。写真を見ることは、写っている事象を体験することでは当然ないわけですが、想像しますよね。写真が、未知の風景を想像し、どこかに歩み出すきっかけになればいいなあ、と思います。ぼく自身も、若い頃はいろいろな写真家の写真を見て、動き出しました。だからぼくの写真が、誰かにとって肉体的にでも精神的にでも、一歩踏み出す小さなきっかけになれたらいい。心を揺さぶられて、想像力をどんどん羽ばたかせていくような。そんな体験をしてもらえたらという思いで、写真集を作ったり写真展を開催しています。

石川さんの写真を部屋に1枚飾ることで、その人自身の旅が始まっていくようなイメージですね。

石川 はい。写真をひとつの窓のように思ってもらい、額縁の中から飛び出していって、その先の世界に飛び込んでいく。そんな風になれたらいいなと思っています。

ⒸNAOKI ISHIKAWA
ⒸNAOKI ISHIKAWA