交通振動低減の新型制振装置開発 3階戸建住宅に標準搭載
積水ハウス株式会社/2001年11月14日
▲新型制振装置「マルチTMD」(イメージ) | |||
このたび積水ハウス株式会社は、交通振動等による建物の揺れを抑える制振装置「マルチTMD」*1(特許出願中)を開発し、鉄骨系3階戸建住宅に標準搭載します。
これまで3階建住宅は、地盤振動を拾いやすく、都心部での交通の激しい地域に隣接する建築にあたっては、交通振動を低減させる技術が課題となっていました。 1つのおもりでは建物の固有振動数にしか対応できなかったのに対し、4つとすることで対応できる振動数に幅が生まれ、複雑な波形を有する振動波にも対応できるようになりました。
これによって、個々の建物毎に異なる固有振動数への調整が不要となるとともに、安定した効果が得られるという特長をもちます。また、コスト高がネックであった機械制御式の制振装置「AMD」*2や従来型TMDに比べて大幅なコストダウンを実現しました。またメンテナンスも不要なのでトータルコストも低く抑えることができます。
当社では従来からも交通振動の多い場所などでは、個別に従来型TMDやAMDで対応してまいりましたが、振動低減に安定した効果が得られ、コストを抑えたこの新システムを開発したことで、全面採用に踏み切ったものです。これにより都心部や狭小地に建てられることの多い3階住宅における居住快適性を一層向上させてまいります。 |
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*1TMD= |
Tuned Mass Damper の略。建物の揺れをおもりに発生する慣性力で打ち消す装置。マルチTMDは積層ゴムに鉄製のおもりを載せたもので、東海ゴム工業株式会社(本社:愛知県小牧市、社長:藤井昭氏)と共同開発したもの。 |
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*2AMD= |
Active Mass Damperの略。コンピュータ制御によりおもりを機械的に駆動させるもの。 |
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1. 交通振動は3階建建物で発生しやすい現象 |
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「交通振動」とは、大型トラックなどが路面の凹凸を通過する際に発生させる大きな衝撃が地盤を伝って、近隣の建物を揺らす現象をいいます。 建物はそれぞれ固有の振動数をもっていますが、地盤の振動数とその建物固有の振動数が近ければ、「共振」という現象で揺れが増幅し、室内でも体感するほどの横揺れが生じます。 2階建に比べ3階建は建物固有の振動数が地盤の振動数に近いため、交通振動は3階建特有の現象として現れます。これは構造上の欠陥ではなく、木造・鉄骨造など構造や構法に関係のない3階建の宿命ともいえる現象です。 |
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【図1】地盤振動と3階建の振動数が似かよっているため共振現象を起こす | |||
2.「マルチTMD」のしくみ |
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TMDの原理は交通振動で建物が揺れた場合に、おもりが建物の揺れと反対向きに動き(慣性力により)、建物の揺れを打ち消すものです。「マルチTMD」はこのおもりを4つに分割したことで、従来型TMDの弱点を解決しました(次項3、4参照)。 設置は3階小屋裏の建物重心の鉛直軸上(ほぼ中央)近くが適しています。なお、マルチTMDは水平振動への対策用であり、増幅が小さく問題になりにくい鉛直振動には対応していません。 |
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【図2】制振装置の原理 | |||
▲小屋裏設置状況(おもり125kg×4) | |||
3.制振の効果:3階で揺れの大きさを3~5割低減 |
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3階における振動レベルが60dB(約半分の人が揺れを体感するレベル)以上なら5dB以上低減でき、60dB未満ならば55dB以下に低減できます。 |
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*6dBの低減は5割程度の揺れの低減に相当。 | |||
4.「マルチTMD」の特長 |
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■ 建物毎の微調整(チューニング)が不要、振動低減効果も大 |
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【4つのおもりによって制振対応力が向上】 1つのおもりの従来型TMDでは、建物固有の振動数におもりの振動数を一致させる微調整(チューニング)作業が必要となりますが、マルチTMDでは4つのおもりそれぞれが異なる振動数に設定されているため振動数に幅を持って対応でき、物件毎の微調整作業が不要になりました。 同時に、振動の低減量は1つ1つのおもりについては少ないものの、全体で1つのおもりの場合に比べ、相乗効果で低減幅も大きくなります(図4参照)。特に、住宅のような複雑な振動をもつ建物には有効です。 |
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【シンプルな機構でも高い効果を発揮】 従来型TMDでは、おもり、バネといった主要機構の他に、揺れを減衰させるためのダンパーが必要であり、微調整やメンテナンスが必要でした。 マルチTMDは、基本的におもりと積層ゴムだけで構成されるシンプルな機構です。これは、汎用技術である自動車のエンジンの振動を車体に伝えないようにするための防振ゴムの原理を応用したため、シンプルで安定し、かつ高い効果を発揮するシステムとすることができました。 また、メンテナンスも不要であり、しかもバネの材質であるゴムの経年変化による変動及び夏場冬場の温度変化を設計に盛り込んでいるため、常に安定した高い効果が得られます。 |
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【図3】マルチTMDと既存TMDの比較 | |||
■ 安定した振動低減効果が得られる |
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実際の交通振動においては、1つのおもりの従来型TMDの場合、複雑な波形をもつ振動に対して対応しきれない振動数があり、振動低減効果が期待できないなどの問題点がありました。 マルチTMDならば対応できる振動数に幅があるため安定した振動低減効果が期待できます。4つのおもりの固定振動数が少しづつ異なることで幅の広い振動数領域の振動低減が可能となりました。
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【図4】マルチTMDと既存TMDの比較 (PDF 48KB) |
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■ 従来型TMDに比べ大幅なコストダウンを実現 |
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マルチTMDは、従来型TMDに比べ、シンプルな機構でしかも現場における微調整作業がなくても安定した振動低減効果が発揮できるため、大幅なコストダウンが可能となりました。 また、コンピューター制御モーター式制振装置であるAMDは、安定した大きな振動低減効果が期待できるものの、設備費用が高くメンテナンスも必要となります。 それに対して、マルチTMDは電気や駆動装置を使わず、しかも安定した振動低減効果が得られるため、個人住宅に最適のシステムです。 |
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制振装置 | 価格 |
AMD | 約400~500万円 |
従来型TMD | 約120~150万円 |
マルチTMD | 約45~50万円 |
・システムの価格は建物条件によりばらつきあり。
・標準採用することによりコストダウンできた効果も含む。 |
本件に関するお問い合わせ先 積水ハウス株式会社 広報部 TEL06-6440-3021 東京総務部 TEL03-5352-3111 |