オフィス事例
「人は宝」~ 社長の思いをカタチに
“つながり”が”つながり”を生み出す
地域密着型CATV会社が
目指したオフィスとは?
目指したオフィスとは?
全国有数のCATV激戦区といわれる徳島県で、後発ながら提供エリアで過半数のシェアを誇るのが「ケーブルネットおえ」です。成長を支えてくれた市民への恩返し、地域のために日々業務にいそしむスタッフへの感謝をカタチにしようと、2019年頃から長年の懸案だったオフィスの建て替えプロジェクトをスタート。コンペ形式の複数プランから経営陣とスタッフ全員一致で採用したのが積水ハウスの「グリーンファーストオフィス」でした。
同局代表取締役の山内成仁氏に、オフィス建て替えの動機、意外なプランづくりのプロセス、新オフィスがもたらした効果や感想について、2022年5月に竣工した新局舎で伺いました。
Premium Movie
「想いがつむぐ、人を育むオフィス」
- 企業名:
- 株式会社ケーブルネットおえ
- 社員数:
- 17名
- 所在地:
- 徳島県
- 敷地面積:
- 1,500.51㎡
- 延床面積:
- 722.14㎡
- 構造:
- 重量鉄骨2階建て
「ケーブルネットおえ」の
新オフィス3つのポイント
section01
スタッフが安心して働ける
オフィスの必須条件
耐震性の高いレジリエンスな建物へ
放送局ならではのBCPで、
緊急時の使命を果たす
2007年に開局した「ケーブルネットおえ」の旧局舎は、当時既に築30年を超える中古物件でした。事業の拡大、スタッフの増員とともに改修を重ねてきたそうです。何よりも、建て替えに向けて山内氏の背中を押したのは、南海トラフ地震への不安でした。
「以前から、大地震への備えが必要だと株主総会でも懸案になっていました。しかし、耐震改修をしようにも設計図すらありません。どんな企業でも事業継続は大切ですが、放送局ならではの課題もありました。災害など万が一の事態でも、現場の情報を地域住民へ伝え、迅速なサポートにつなげるために、被災状況を全国ニュースへ配信し続けなくてはならないことです。放送の断絶は市民の命にかかわります。耐震補強に伴う大がかりな修繕で、放送業務に支障が出るのも避けなければなりません。それが建て替えに踏み切った理由です」(山内氏)
企業としてのBCP(事業継続計画)に資すると同時に、放送局としての使命を果たすには耐震性の向上が欠かせなかったのです。
スタッフ家族も避難できる頼もしいオフィス
また、災害からの回復力・強靭さを意味する「レジリエンス」を確保するため、避難所としても機能するオフィスを目指しました。
「災害時はスタッフの家族も被災者になります。安心して仕事を続けるには、家族が会社に避難して身を守れるような体制が必要です。そこでオフィス内に、複数の家族が2週間くらい生活できる水と食料の備蓄庫、シャワー室、ランドリー施設を設けました。また、建物正面の広い来客用駐車場は災害用テントを張れば地域住民の方の避難場所にもできるでしょう。オフィスが地域の防災拠点になれればと考えました」(山内氏)
Column
万一の“シェルター”となる強靭な
重量鉄骨造
「フレキシブルβシステ ム」
ケーブルネットおえ様のオフィス構造躯体は、設計の自由度を高めた積水ハウスオリジナル構法の重量鉄骨「フレキシブルβシステム」。60mの高層ビルと同レベルの耐震基準を備えていて、従業員の方々やご家族の命を守る強靭なシェルターとして機能します。また、南海トラフ地震を想定したハザードマップを踏まえ、通常40cmの基礎の高さを1m確保しました。二重三重の防災性を備えています。
section02
スタッフのスキルが発揮される
働きやすい“つながる”オフィス
山内氏が、新局舎の希望条件として、耐震性と並んで重要ポイントに掲げたのが「スタッフが働きやすい環境」です。創業以来掲げてきた“人は宝”という理念を実践するために、山内氏がとったのは意外なアプローチでした。
「プランを練るに当たって、我々経営陣はできるだけ口を挟まず、スタッフだけでプロジェクトチームを組んで進めました。マイホームなら住む人が施主としてプランを作りますよね。オフィスなら、働く人が主役になって自分たちの使いやすい空間を決めたほうが良いプランができると考えたからです。スタッフ一人ひとり、1つずつスペースを担当して愛着を持って作り上げて行きました」(山内氏)
こうしてスタッフの間から持ち上がった希望条件が「部署の異なるスタッフ全員がワンフロアで就業できるスペース」と「リラクゼーションルーム」でした。
ワンフロアでの執務と
リラクゼーションルームを必須に
旧局舎では、営業、業務、技術、制作の各部署が1~2階の3部屋に分かれ、相互の交流も乏しかったそうです。そのため新局舎は、緊急時に全員が瞬時に情報を共有し、同じ温度感でスタッフ一丸となって動けるようにワンフロアを希望しました。日常業務でも、連携が取りやすくなったそうです。
Interview
-
総括マネージャーの片岡和也氏
「旧局舎時代は、地域の火災などの第一報を誰かが受けて他の部署に内線で伝えても、緊迫感が伝わらず、対応に温度差が出ていました。全員一緒のワンフロアになって一瞬で危機感が共有されるようになり、初動のスピードも格段に速くなりましたね」
-
業務グループの川人ひとみ氏
「開放感があって仕事がしやすいですね。全員が同じスペースで仕事をしていることで、他の部署の仕事も見えるようになり、より互いの仕事への理解も深まりました」
また、番組制作のアイデアやイメージはデスクにかじりついていても出てきません。オンオフを切り換え、休憩時には思い切りリフレッシュして、仕事に戻ったら打ち込めるメリハリの利いた空間が欲しいという声が多かったため、リラクゼーションルームが必須条件の1つとなりました。
リラクゼーションルームの特徴は、1階事務室に引けを取らない広々したスペースと、運動・趣味・遊びの要素を採り入れたワクワクする仕掛けです。寝転がれるソファやストレッチのできる遊具を備えたリフレッシュ・コーナー。ランチやティータイム、ミーティングにも使える大型カウンターのあるキッチン。アットホームな雰囲気に浸れるリビング・コーナーなど、クリエイティブな発想が生まれるウェルネス・ゾーンになっています。
Interview
-
制作グループ・リポーターの瀧口菜々子氏
「2階のリラクゼーションルームは天気が良い日は大きな窓から日が差し込んで明るい空間になり、気分も明るくなります。休憩時間に思い思いに過ごしてる様子が印象的ですね。私はビーズクッションに寝転がって上質な昼寝を堪能しています」
リラクゼーションルームの一角にあるキッチンコーナーは、単なる給湯室とは異なり、大型カウンターで打ち合わせをしたり、当初想定していなかった料理番組を撮影したり、活用方法はさまざま。木調のキャビネットやラックなど、住宅メーカーならではの邸宅テイストを醸し出すインテリアデザインが、仕事と休憩の両面でスタッフの気持ちを和らげます。
またこのオフィスでは、多目的に使える仕掛けが施された2階のリラクゼーションルームと1階事務室を開放的な吹き抜けとスケルトン階段でつなぎ、一体感を持たせている設計が特徴です。業務の目的や内容に応じてさまざまな場所でスタッフ同士をつなぐことで、全体としてスタッフ全員の気持ちがつながり、チームによる協働の効果が増幅されます。
このような空間のつながりは、積水ハウス側からプラスアルファの要素として提案された「つなぐ/つながる」というコンセプトと、新しいワークスタイルの“ABW”(コラム参照)の考え方によるものでした。
Column
“つながり”を大切にする社風に
フィットしたABW
設計者・末木からの解説
スタッフの方々と接する中で、スタッフ皆さんのつながり、地域とのつながりを大切にしている社風を感じ、「楽しくつながれる空間」をコンセプトにしました。これをカタチにするに当たって着目したのが、新しい働き方にマッチした設計思想として昨今話題になっているABWです。これは“Activity Based Working”の略で、仕事内容や気分に合わせて働く場を選べるスタイルを意味します。ABW自体は、コロナ禍で広がった在宅ワークやサテライトオフィスなど、本社オフィス以外のスペースも含む広い概念ですが、今回のプランではオフィス内の空間設計にABWを採り入れました。個人単位の多目的な利用、チームによる協働の両面で働く場を充実させられるABW環境は、スタッフ一人ひとりのやる気と能力を引き出し、会社全体としての生産性のアップにつながります。
「新しいオフィスになって、スタッフみんながにこやかな良い表情になっていると実感しています。個人で業務に集中する場面とチームで協力する場面をスムーズに使い分けられ、仕事の効率も上がっているようですね。スタッフから出た個別の要望を、設計者の方がうまくつなげて良いデザインに仕上げてくれました」(山内氏)
Interview
-
営業グループの橋本拓弥氏
「かしこまった話やオフレコで話したい場合は 会議室で、フランクに相談したい時はリラクゼーションルームのソファで、場所を選べるのがいいですね。キッチンでは、簡単なミーティングをする機会も増えました。旧局舎では部署ごとの関わりしかなかったのが、ここでは各部署の垣根を越えて交流する機会が増え、積極的な意見交換が行われています」
section03
快適さと光熱費削減を同時に実現
環境配慮で地域に貢献するZEB
働きやすいオフィス空間を支えるのが快適な温熱環境です。3つ目の希望条件として、「夏涼しく、冬暖かいフロア」を掲げたのも、スタッフからの切実な思いを反映しています。一方で、放送事業とインターネットサービスを兼ねるCATV局として電力使用量が多いことから、環境負荷を減らす対策も併せて意識していたそうです。
「当初から、太陽光発電装置を設置して再生可能エネルギーを使用することで、少しでも地域環境へ貢献したいとは考えていました。ただ、開放的なワンフロアで1年中快適なオフィス空間を実現できるか心配もあったんです。積水ハウスさんからZEB(コラム参照)の提案を受け、これなら環境配慮と快適さを両立し、地域にもスタッフにも役立つオフィスになると確信しました。
ZEBを採用したことで、先進的なサスティナブルな事業として金融機関からの融資にも有利に働きました。光熱費を節約できれば契約料を引き下げるなど地域にも還元できると考えています」
(山内氏)
Column
戸建て事業のZEHで培った実績を活かし、
ZEBでも高いエネルギー効率を実現
戸建て事業のZEHで培った実績を活かし、
ZEBでも高いエネルギー効率を実現
ZEBは「Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の略称で、太陽光発電によって創出したエネルギー量と、断熱性の高い建物や高効率の照明・設備機器によって少なく抑えた消費エネルギー量の差し引きを、年間でゼロにすることを目指した建物のことです。
オフィスをZEB仕様にすることにより、季節を問わずに快適なオフィス環境を維持しながら、光熱費を削減できる上に、太陽光発電を搭載することでBCP(事業継続性)の向上にも役立ちます。さらに、CO2排出量を抑えて環境負荷を低減できるため、持続可能な社会を目指す国際目標SGDsの複数のゴールに該当し、企業価値を高めるESG経営にもつながると言われています。
Interview
-
技術グループの宇田裕志氏
「機械室は空調管理が重要です。旧局舎に比べて機械室が広くなり、空調機器も大型化したので室温管理がしやすくなりました。作業通路も広がり、大人数での通信機器等のメンテナンスも行えるようになり、作業効率もあがったと思います。建物全体の断熱性が高いおかげで夏場のエアコンの効き具合は良く、快適でしたね」
素敵なオフィスが、
地域とのつながりを強める
新しいオフィスでは、訪れるお客様との接点も改善されました。ゆとりのあるエントランス、旧局舎にはなかった来客応対ブースやキッズスペース、放送局の顔となるオープンスタジオなど、地域住民とのつながりがスムーズになるレイアウトが実現されています。
Interview
-
制作グループの菊澤成太郎氏
「スタジオやコントロールルームが整備されて制作の幅が広がり、制作意欲向上にもつながりました。お客様にも設備の一部をご覧いただけるような工夫が施されており、ケーブルネットおえで従事する身として少し誇らしさも感じています」
オフィスの建て替えは、プラスアルファの恩恵ももたらしています。人口減少で人手の確保に頭を悩ませる経営者が多いなか、今回の建て替えはスタッフの離職率を下げることも目的の1つでした。新しいオフィスは、当初の目標を達成した上に、人材確保にも好影響が出ているというのです。
「職場体験に地元の中学生を招いてオフィスを案内した時、『こういう会社でいつか働けたらいいなぁ』と言ってくれました。地域の方からも好評で、『次の募集はいつですか。空きが出たら是非応募したい』という声も聞かれます。地域への恩返しのつもりで建てたオフィスが、将来の人材を集める拠点にもなり、いろいろな相乗効果が表れていることは間違いありません」(山内氏)
「人は宝」という社長の理念が体現された新オフィスの誕生は、スタッフだけでなく、地域の未来へとつながっていくのかもしれません。
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