ダイバーシティ推進の現状と課題、展望を語り合う
女性役員座談会

2021年4月、新たに2人の女性社外取締役を迎えたのを機に、コーポレートガバナンス体制の一層の強化を図るとともに、女性活躍推進をさらに加速していきたいと考えています。そこで、現在の日本における女性活躍やダイバーシティの現状を踏まえつつ、積水ハウスグループの状況、今後の課題や展望などについて、女性役員4人に語り合っていただきました。

[参加者]写真右より

社外取締役 吉丸 由紀子

社外取締役 中島 好美

社外取締役 武川 恵子

執行役員 ダイバーシティ推進部長 山田 実和(進行担当)

吉丸 由紀子

国内外のさまざまな企業でキャリアを積み、ダイバーシティ推進にも幅広く携わる。日産自動車(株)ダイバーシティディベロップメントオフィス室長、(株)ニフコ執行役員を経て、三井化学(株)、ダイワボウホールディングス(株)社外取締役を兼職。2018年4月より当社社外取締役に就任。

中島 好美

シティバンク,N.A.やアメリカン・エキスプレス・インターナショナルなど、数多くの外資系企業で経営に携わる。イオンフィナンシャルサービス(株)、日本貨物鉄道、アルバックの社外取締役を兼職。事業構想大学院大学特任教授としても活躍中。2021年4月より当社社外取締役に就任。

武川 恵子

総理府(現 内閣府) にて要職を歴任。内閣府男女共同参画局長として、男女共同参画に関する政策実現にも邁進する。日本電信電話(株)、三井金属鉱業(株)社外取締役を兼職。昭和女子大学グローバルビジネス学部長としても活躍中。2021年4月より当社社外取締役に就任。

山田 実和 (進行担当)

 積水ハウス 執行役員 ダイバーシティ推進部長

「女性活躍推進に積極的な企業」のイメージは強い

山田 まず、新たに社外取締役に就任されたお二人から、これまでのキャリアなど簡単に自己紹介をお願いします。


中島 外資系企業を中心に、マーケティング部門で経験を積み、最終的には経営に関わるようになりました。私が経営に興味を持ったのは20代後半。ニューヨーク本社で女性重役の話を聞き、「私もこんな人になれたらいいな」と憧れを抱いたのがきっかけです。上司や同僚に恵まれ、自分から発信することの大切さも教えてもらったことが、今につながっています。


武川 私が総理府に入職したのは1981年。ちょうど「国連婦人の10年」の中間年にあたり、国家公務員においても女性を採用しようという動きが出てきていた時代です。それから37年余り、各省庁と連携しながら男女共同参画や共生社会政策などに取り組み、さまざまな政策を進めてきました。


山田 積水ハウスグループに対しては、どんなイメージを持っておられましたか。


武川 私は23年前、積水ハウスで家を建てました。その時の設計担当が女性で、その後のリフォーム担当も女性。その縁もあり、女性が活躍されている会社だと思っていました。仕事上においても、内閣府男女共同参画局の「女性が輝く先進企業」の表彰などを通し、女性活躍推進に熱心に取り組まれていることもよく理解しておりました。


中島 女性活躍やダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)を研究テーマとしていたので、それらに積極的に取り組まれている企業であるというイメージを持っていました。社外取締役に就任した今は、もっと取り組めること、進めていけることがあるのではないかと、大きな可能性を感じています。


武川 確かに、男性の育休制度やLGBTQの取り組みなども含め、先進的な活動をされていますね。ただ、女性管理職の人数はまだまだ少ない。女性営業職の積極採用、女性管理職の育成といった取り組みを続けていくことで分母となる女性従業員の数も増え、管理職に占める女性の割合も変わってくるだろうと期待しています。


中島 女性活躍推進を女性営業職の積極採用からスタートしたという点にも、積水ハウスとしての覚悟を感じます。営業は結果がはっきり出ますが、その分、厳しい面もある。別の職種で女性管理職を増やすといった企業も多い中、営業職で女性活躍を推進し続けるというブレない姿勢は素晴らしいですね。


山田 ありがとうございます。吉丸取締役は就任から3年半が経ちますが、この間、何か変化を実感されていることはありますか。

吉丸 当時、女性取締役は私1人でしたが、こうして座談会ができるようになったことは、ガバナンス強化の面でも大きな変化です。取締役会改革にいち早く着手しつつ、ダイバーシティの継続的な推進も、企業としての力になっていると思います。


山田 女性管理職候補者向けの研修「積水ハウス ウィメンズ カレッジ(以下ウィメンズ カレッジ)」にも関わっていただいています。


吉丸 はい、4年にわたり参加していますが、毎回とても刺激を受けています。皆さん管理職候補というだけあり、非常に優秀で前向き、リーダーの素養も強く感じます。この中から部長職、役員をどのように増やしていくか、それも今後の課題の一つでしょう。

ダイバーシティ推進の意義やメリットを明確にすべき

山田 ダイバーシティの分野でも豊富な経験や実績をお持ちです。日本におけるダイバーシティ推進やESG経営に対する考え方などをお聞かせください。


中島 私は外資系企業を中心に働いてきました。日本企業と比べると女性が活躍できる環境でしたが、ジェンダーや人種、国籍など、さまざまなダイバーシティの問題は今もあります。その中で感じる疑問や課題をバネにしながら、人財育成や経営に関わってこられたことで、D&Iをライフワークにできたのは良かったと思っています。


武川 女性活躍の推進をはじめ、さまざまな社会課題に対する政策は国連が先導して取り組み、そこに日本も追いつこうとして進めていくという状況があります。ここ最近、注目を集めるようになったESG経営もそのひとつ。人権や環境といった地球規模の課題に対し、営利企業もその役割を担うべきであるという世界的な動きが2000年頃から生まれました。ここ数年で、日本の企業も急激に変わってきたと感じます。


中島 日本企業の多くは、国が掲げた数値目標に向けて、ようやく動き出した感じでしょう。なぜD&Iが必要なのか、企業にとってどんなメリットがあるのかという視点を持って取り組めば、もっとスピード感は上がってくると思います。その部分をリーダーが明確に発信し、実践していくことが実はとても重要なんですが、できていない企業も少なくありません。


吉丸 「J-Winダイバーシティ・アワード」の審査員を13年やっていて感じるのは、日本企業におけるD&Iは浸透してきてはいるものの、二極化しているということです。力のある企業や強い意志を持つ企業は進んでいるが、そこに続く企業が大きく増えていかないのが現状。政府目標として掲げられている女性の管理職比率30%がなぜ、何のために設定されているのか、D&Iが企業にとっていかに必要なものなのか、というメッセージは比較的弱いように思います。


武川 なぜ30%かということですが、これはクリティカル・マスの考え方に基づいています。集団の中で何らかの変化を起こそうとすると、30%程度の数が必要です。そこで、3割までは政策的に誘導する必要があるとして、2003年に政府目標として掲げました。国連では、1995年までに達成すべき目標として、1990年にその数字を打ち出しています。


中島 男性ばかりの職場に女性が入ったとき、影響力を及ぼすにはある程度の人数がいないと無理なんですよね。男性に負けじとがむしゃらに頑張る人が必要なわけでなく、女性が複数名いることで影響力は自然に出てくる。「複数形」というのは、重要なキーワードではないかと考えています。

先進的な取り組みで日本のダイバーシティ推進を牽引

山田 当社グループでは、ダイバーシティ推進方針の柱のひとつとして女性活躍推進を掲げています。現状の取り組みや先進性などについて、どのように見られていますか。


武川 「『わが家』を世界一 幸せな場所にする」というグローバルビジョンに基づき、何が幸せにつながるのかを考え、ダイバーシティを推進されているのは、とても先進的だと思います。例えば、男性の育休制度もただ導入するだけでなく、男性が家事や育児をすることで家族の満足度をどんなふうに高められるのか、女性活躍推進にどうつながるのかしっかり分析しておられる。だからメッセージにも、説得力がありますよね。


吉丸 ESG経営の「S」の位置づけが非常に明確で、従業員と企業がともに推進すべき取り組みとして示されているのは、とてもいいことだと思います。


山田 一つひとつの取り組みの意義・目的をいかに理解してもらうか、が大切だということですね。ダイバーシティの推進が自分にとっても、企業にとっても、社会にとってもいいことだという意識は、だんだん浸透してきていると感じています。


吉丸 2018年から、仲井社長は「イノベーション&コミュニケーション」を職場づくりのキーワードとして掲げられています。ダイバーシティはまさにその源泉であり、企業の持続的発展には「イノベーション&コミュニケーション」は必須。そのためにも女性活躍を推進すべきであるという方向性を、もっと明確に打ち出してもいいのではないかと思います。

中島 経営的な視点から見れば、企業とは存続することに価値があり、商品やサービスが求められないと死んでしまいます。では、死なない企業とは何か。それは、常に変化し続ける、「これが欲しい」と言われる前にニーズを作り出し、それを商品化し提供していける企業です。現状に満足していたら変化はなく、そこにイノベーションは生まれません。いい商品、いい販売方法、いいサービスを生み出すためには、女性活躍を中心とするダイバーシティの推進が不可欠だということです。


武川 高度成長時代は、さまざまな職場から改善案がどんどん上がってきて、その中で変化や成長を続けながら日本の製造業が強くなっていったという背景もあります。女性の共感力の高さを生かし、お客様の表情や声のトーンといったわずかな部分から本当の気持ちや関心を受け止めることで、新しいアイデアや提案にもつながっていくのではないかと思います。


吉丸 そのためには、上司のマネジメント能力も求められますね。営業の会社であれば、営業力の優れた人、売り上げ実績が評価されて上司になるケースが過去にはよくありました。積水ハウスグループでは、部下の声が聴ける、マネジメントできるかどうかという点を特に重視されてきていると感じます。


中島 日本ではそれができていない企業が多いので、その点でも先進的ですね。リーダーに必要な能力とは何か、それが明確になっている企業は、D&Iがより浸透していきますから。

実践の場で経験を積むことで成長を促すことが重要

山田 当社グループにおけるダイバーシティをさらに推進していく上で必要なこと、課題とは何でしょうか。


中島 社内では当たり前のことでも、社外から見たらすごいと思うことはいっぱいあるものです。ESG経営のリーディングカンパニーという地位を確立する上でも、従業員一人ひとりがもっと自信を持ち、自社の取り組みや考え方を発信していくべきです。発信力を高めることで、優秀な人財もさらに集まってくるはずです。


吉丸 日本では、新卒一括採用で終身雇用という企業が多いですね。この状況のままダイバーシティを社内でただ推進しても、グローバル市場でのビジネス競争力としてはまだまだ不十分でしょう。グローバルビジョンを実現するためには、採用の部分からあえて違う属性の人を増やしていくのも、一つの経営戦略になりますね。


武川 今以上に、風通しのいい職場を作っていくことも重要でしょう。年齢や性別、経験などを問わず、誰もが積極的にアイデアを提案できる職場を目指していくべきですね。


中島 従業員一人ひとりが思い描く「幸せ」を、企業がどこまでサポートしていけるか。育児や介護、転勤など、女性活躍を推進していく上ではどれも切実な問題です。一つひとつ制度を整えることは難しいですが、「今、必要なことは何か」「どうしていけばいいか」を、職場で話し合える環境であってほしいと思います。

武川 海外人財を増やしていくことも必要です。今は無理でも、子どもが大学生になったらどこでも行けるという女性もいます。バリバリ仕事ができるピークは、人それぞれ。もっと柔軟に考えることで、無理な転勤や一人に過剰な長期赴任を強いることも防げるはずです。


吉丸 経営幹部候補の育成にあたり、どういう役割で、どういう経験が必要なのかを明確にしていけば、年齢や性別などに関係なく海外で活躍する人財は増えてくると思います。


中島 「この若さでは、あの仕事は任せられないだろう」といった、アンコンシャスバイアスも影響を与えます。それを取り払っていけば、もっと可能性は広がっていくでしょう。また、従業員の皆さんも、自分の意志を上司にきちんと伝えなければいけません。「わかってくれているだろう」ではなく、しっかりコミュニケーションを取っていくことが大切です。


武川 女性役員をどうやって増やしていくか、その対策も必要ですね。


吉丸 「ウィメンズ カレッジ」などでその土台を作っている時期だと思いますが、その次のステップを考えなければいけません。


中島 私の経験から言えるのは、制度ではなく実務で育てていかなくては、経営の視点や考え方は身につかないということです。


武川 そうですね。役員になった方に話を聞くと、「今まで経験したことのない大きな仕事を任された」「ロールモデルがいない現場に放り込まれた」といった声がよく聞かれます。


吉丸 自身で経験することが重要なんですよね。その場合大切なのが、セーフティネットをしっかり張っておくことです。


中島 ただ任せただけでは、孤立感を味わってしまうだけ。「期待しているから任せるんだ」「失敗してもいいから思い切ってやってみなさい」ということをきちんと伝えることです。その中で、自分で考えながら力を身につけていけるよう、周りがサポートしていかなくてはいけません。


武川 私たちの経験も参考にしていただけるのではないかと思います。


中島 今、社外取締役として関われることは、自分自身の成長にも意味があると考えています。私たちを大いに活用してください。


山田 皆さんと直接お話したい、いろいろな経験談や考え方を聞きたいといった声もたくさん出てきています。ぜひ、そんな機会もつくっていきたいと考えていますので、これからもよろしくお願いいたします。