土地が培ってきた歴史を、未来へと引き継ぐ。人々がその風景と文化を大切に守ってきた地域で分譲マンションを展開してきた〈グランドメゾン〉が、横浜・山手の住まいづくりにおいて目指すものとは。2004年に竣工した、中区山手町の南西に建つ低層マンション「グランドメゾン山手225」の設計を手掛けた積水ハウス東京マンション事業部設計室シニア・スペシャリストの松本孝之さんと、「北川原環境建築設計事務所」の代表・北川原智さんにマンションづくりに込めた思いを伺いました。
1本の木を残すために
小さな思案を積み重ねていく。
松本さん:横浜・山手といえばやはり、開港の歴史とともにある異国情緒あふれる「洋館」のイメージがすぐに思い浮かびますが、「グランドメゾン山手225」のコンセプトを形にするにあたり、北川原さんら設計チームとディスカッションする中で共有したのは、そうした外観上の意匠よりも、「新しいものを取り入れ、発信してきた」土地の文化そのものを受け継いでいきたいということでした。歴史ある洋館も、それらが建てられた当時における先進的な技術を採用したモダンな建築であったはず。そうした山手のまちづくりの思想を踏襲しながら、現在における最高の住まいを作りたい。それが50年、100年後も受け継がれていくことが理想ではないかと。しかしながら、もちろん現在ある山手の風景にもしっかりと馴染んでいくことも大切です。そのバランスを取ることが設計におけるひとつの課題でした。
北川原さん:「グランドメゾン山手225」が建っているのは、「山手本通り」と「地蔵坂公園」に面した地蔵坂上の三方角地です。設計に先立って現地を訪れると、角地には古くから残されてきた石塀と20本ほどのシイノキの大木がありました。木は幹周りが1〜2メートルほどもあり、おそらく樹齢は100年以上。長い年月を生き残ってきたこの木々をできる限り残す形で設計をしたいと考えました。
その点で思い出深いのは、地蔵坂公園側に作った駐車場です。もし表通りから出入りしようとすると、駐車場に車がずらりと並ぶ姿が前面に出てきてしまう。穏やかな山手の住宅地の風景にもっと溶け込めるような形にできないかと考え、南傾斜の地形を利用して、裏通りの地下に駐車場を作ることにしました。これによって、正面は「車寄せ」のみになり、塀と前庭があって緑の奥に建物が小さく見えるという、山手で古くから続く邸宅のイメージを取り入れることができました。ただ、地下駐車場と通りを挟んだ向かいにある地蔵坂公園の出入口からの距離の都合上、木をどうしても
1本切らなくてはいけなくなったんですね。それがまた素晴らしい枝ぶりの立派な樹木でした。これをどうにかして残したいと思い、横浜市の担当者と協議を重ねて、通路幅を広げたり、駐車場の出入り口にブザーやランプをつけて歩行者の安全を確保したりと対応することで、結果的に木を切らずに済ませることができました。このマンションはそうした小さな思案の積み重ねによる集大成と言えます。
外部に広がる風景を取り入れ、
土地に住む喜びを
感じていただきたい。
松本さん:周囲の景観と馴染んでいくことは、建築においても最も大切にした部分ですね。塀と樹木という既存の遺産を活かして、建物はなるべく目立たないよう、存在感を消していくことを考えました。威圧的な印象にならないよう、スラブ(構造床)は薄く、柱は細く、ガラスの箱のようなイメージとしました。
積水ハウス
東京マンション事業部設計室シニア・スペシャリスト
松本孝之さん
建物の中に入るとまず、2層吹き抜けの大きな開口部を持つ空間に至ります。こうした構造にしたのは、石塀や大木の風景をゆっくりと眺めていただきたかったから。エレベーターホールから上階に上がれば、さらに山手の町並みが目に飛び込んで来る。内部に装飾を凝らすよりも、外部に広がる豊かな風景をふんだんに取り入れることで、その土地に住む喜びを感じていただきたい。これは今後、山手地区に計画されるグランドメゾンにおいても変わらない考え方ですね。
素材では、ガラス、コンクリート、石、レンガタイル、天然木など、本物のソリッドな素材を使い、経年によってより深みや魅力が増していくようにと考えました。木材には横浜の港町としての歴史や文化を反映して、客船の内装にも使われているマホガニー材を使っています。
北川原環境建築設計事務所元代表
北川原智さん
北川原さん:そうした本物を使っているからこそ、「グランドメゾン山手225」は竣工から20年近く経った今もその佇まいが変わらず残り、より周囲に溶け込んできたように思います。消耗する設備は交換し、メンテナンスしながら使い続けていけば、きっとこのまま100年でも続いていくことでしょう。地域の風景とともに大切に住まい続ける、日本でもそんな考え方が珍しくなくなっていく時代が来ているのではないかと思っています。