人と人の絆、継承する伝統の尊さを静かに語りかけてくる、和の空間。
マンションの未来。
九州大学大学院 芸術工学研究院 芸術工学博士 佐藤 優 教授
九州大学大学院 人間環境学研究院 工学博士 竹下 輝和 教授
積水ハウス株式会社 福岡マンション事業部 設計企画課長 一級建築士 佐古田 智哉
鹿児島女子短期大学 教養学科 園田 美保 講師
九州大学大学院 農学研究院 農学博士 佐藤 剛史 助教
熊本大学 教育学部 学術博士 鳥飼 香代子 教授
グランドメゾンデザインセンター菜院
暮らしの楽しみを広げる趣味の教室は、交流を生むきっかけにも。
東京テラス
住民同士のコミュニケーションを育む、コンサートホールを共用施設として設置。
グランドメゾン東戸塚
バーベキュー等を楽しむロッジが、敷地内に。”第3の場所”としての役割も担っている。
園田:家族を再構築するためには、日常生活において同じ体験を通し、同じ事を感じるシーンが大切です。例えば親子一緒に料理をする。その積み重ねが共感性を育み、社会性が身についていきます。子どもの目線で考えると、台所の配膳台は高すぎて手伝いにくいですね。 佐藤剛史:全国約170校で行われている「弁当の日」の取組みも、食育だけではなく親子のふれあいを育むという一面があります。住まいには、家族の愛情を心から実感できる時間・場面をサポートする仕掛けが必要なのです。 鳥飼:今の子どもたちは生活体験が希薄です。しかし核家族化が進む現代は、生活体験の場をある程度地域に託す必要があるとも考えます。
竹下:私は親の気配を通して倫理観を学ぶ、子どもが何をしているか気配で感じるなど日本的な人間関係をより豊かにする住まいのあり方を探りたいですね。
鳥飼:日本の住まいの格式性として残っているものに玄関がありますが、他者と一番交流できる場所と考えると、本当に必要なのかと思います。
積水ハウス:玄関は、住まいの顔として、またお客様を迎え入れる場所として、私たちがこだわっている空間のひとつではあります。
竹下:玄関は、諸外国にはない部分です。「遮断」ではなく「表出の場」であればいいのですが。
積水ハウス:表出という点では、共用廊下から見える玄関前に「ウェルカムボックス」を設けたマンションがあります。ガラス貼りのボックスで、折り紙が好きな方は折り紙を、また季節の室礼(しつらい)を演出するなどお楽しみいただいています。
園田:単に建築を使うのではなく、住みこなしができるウェルカムボックスは、いいアイディアですね。
佐藤剛史:ウェルカムボックスは、住んでいる人を部屋の中から引っ張り出す「きっかけ」になりうる存在。お隣さんの暮らし方が見えてくることで、地域コミュニティのひとつの仕掛けになります。
グランドメゾン高取弐番館
共用廊下から見える、ウェルカムボックス。
住まう人らしさを表出させ、コミュニケーションを生み出す。
鳥飼:マンションの中で大きな空間、地域・親戚に開放する空間をどうつくるかが課題です。マンションの南側に通路を設け、その通路を第2のリビングとして交流の可能性を探ろうとしたケースもありました。また家庭菜園があれば、地域の方との交流が生まれます。
園田:今、都市生活者の居場所として「サードプレイス(第3の場所)」の必要性が注目されています。家庭と学校、家庭と職場という2箇所ではなく、それ以外の施設、例えばカフェ、パブ、居酒屋、子どもたちの世界だったら広場、駄菓子屋などです。
積水ハウス:アイランドシティ「照葉のまち」では、コミュニティを育むために自治会や子ども会とタイアップし、スポーツや文化活動、美化運動などに積極的に取組んでいます。
鳥飼:「自分の居場所」という言葉をよく聞きますが、心理学では〝征服する〟という捉え方があります。昔の子どもは、屋根裏から床下までもぐって、自分の家を征服したという気持ちになれました。
佐藤剛史:子どもたちは、自分の頭で考え、自分の手で何かを実現できるプロセスに「居場所」を求めます。ドイツで見た農家では、近所の子どもたちが勝手に動物の世話をして、勝手にノコギリや釘などを使ってモノをつくる場面に出会いました。
竹下:家族や地域コミュニティを再構築するためには、モノづくり+コトづくりの考え方が必要ということだと思います。
アイランドシティ 照葉のまち
地域との交流が”居場所”づくりになる。
グランドメゾン大濠ORGA
九州ならではの素材、伊万里焼を用いることで、地域の歴史や伝統を受け継ぐことにつながる。
グランドメゾン主税町三丁目
玉砂利という自然素材を屋内へ持ち込むことで、日本らしい情緒、屋外との連続性が生まれる。。
グランドメゾン今川
四季折々の表情を楽しませてくれる「桂の杜」。素焼きタイルの塀とともに、成熟を重ねる。
積水ハウス:社会情勢は刻々と変化し、便利さ・グローバル化が進む中、私たちは大切なものを失いつつあるのではないでしょうか。住まいという「器」をつくるだけではなく、日本の文化の継承という観点からもマンションづくりを考えていきたいのです。
佐藤優:日本のマンションは画一的すぎる感もありますね。日本の落ち着きに対して、韓国では色あいの強い配色を好み、中国では総大理石のマンションがあるなど富裕層のマンションが確立しています。もっと骨太な美しさがあってもいいと思います。
積水ハウス:外構については、日本の里山をお手本にした「5本の樹」計画に基づき、その地域の気候風土に合わせた豊かな緑を植栽し、鳥や蝶を呼び寄せる取組みを行っています。その緑の多さが主張のひとつであるがゆえに、外観の色合いは緑との調和の良いアースカラーが主流となっています。
佐藤優:マンションに多くの緑を取り入れる自然の豊かさはいいですね。
竹下:私はデザインセンター薬院で、日本らしい歳時の空間演出・室礼の提案を見せていただき、日本人が元々持っている住文化を取り戻そうとされているのには感心しました。室内だけではなく、エントランス前にも大きな鯉のぼりや門松などを飾ってほしいほどです。
佐藤優:季節の演出を考えるなら、床の間に掛け軸や花を飾る和室の役割があります。しかし和室を装飾としてとらえるのではなく、「日本らしい素材感」を与えるという方法もあります。2帖の畳があるだけでも日本の魅力を知ることができます。
竹下:和室を設けるという考えではなく、畳を家具化して〝タタム〟という発想は日本らしくいいですね。
佐藤優:日本の暮らしの良さは、自然といかに空気でつながっていくかだと思います。そう考えると、現在のマンションが苦手なのは「水と音」ではないでしょうか。例えばお客様がいらっしゃるときに玄関に打ち水をしたいが、マンションではできません。そよ風や音の演出など日本人が持つ心地よさを表現できたらいい。また日本らしく、風化していく色を愛でるという発想はどうでしょう。
積水ハウス:緑や天然石を使った外構はありますが、住まいの内側はほとんどありません。打ち水ができる玄関廻りは魅力的ですね。
竹下:日本の住まいには、触感が大切。ノブを握った時の手触り、床を素足で歩く時の足触りなどです。日本の文化は「視覚」だけではなく、「五感に響く文化」ですから。
佐藤優:京都の学会で作庭師のお話を聴きましたが、「見る庭」と「使う庭」という話に感動し、日本が培ってきた大切なものを感じました。
積水ハウス:小さな暮らしの集合体が社会であり、今その社会に問題が山積みされていることを考えなければいけません。風土と伝統・文化を継承しつつ、本当に安らげる住宅を提供することが私どもの責任と考えます。お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございました。
和の情緒と感性を見通し、次代の「集合住宅」を目指して。
家族を優しく包み、豊かな感性を育んでゆく。グランドメゾンは、さまざまなスタイルで、次代のマンションを創造し続けています。※ ここに掲載の情報は2009年時点の情報に基づいています。