知っておくべき、14のシカケ

乳幼児睡眠コンサルタント・愛波あやさんに聞く、良質な睡眠のためのコツや空間づくり。前編では、子どもの成長と睡眠の関係性などを伺ってきましたが、具体的にどんな空間があると良質な睡眠を得ることができるのでしょうか。子どもがグズらずにスムーズに寝てくれるには……?
こちらの後編では、子どものための住まい環境について長年研究を行っている暮らし提案の専門家・積水ハウスフェローの河﨑由美子と共に、空間づくりのヒントや、生活ルーティンについて伺っていきます。

乳幼児睡眠コンサルタント 愛波 あや

2014年に米国IPHI公認資格(国際認定資格)を日本人で初めて取得。現在は2人の男の子の子育てをしながら、ニューヨークと日本で子どもの睡眠に悩む親たちをサポートしています。睡眠・子育て・教育についてなんでも質問に答えてくれる『愛波子育てコミュニティ』をオンラインにて開催中。
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積水ハウス 河﨑由美子

積水ハウス フェロー R&D本部。1987年入社。キッズデザイン、ペット共生、収納、食空間など、日々の生活に密着した分野の研究開発全般に携わる。執行役員、住生活研究所長を経て、2023年4月より現職。一級建築士。キッズデザイン協議会副会長。共著「生活リテラシーBook 子どもの生きる力を育む家」

01 寝室を家族の“安全地帯”にしよう

愛波:睡眠トラブルを改善する方法として、普段から「睡眠環境」「ねんねルーティン」「幸福度」という3つの土台を整えましょうとお話しているのですが、まず環境が整っていないと何も始められませんので、そこが一番大切です。

河﨑:「睡眠環境」といえば、寝室の空間づくりにおいて私たちは「部屋の環境」「布団の環境」「服の環境」という3つの環境を考えています。“寝るだけの場所”だからと言って、寝室は狭い空間にしてしまいがちなのですが、赤ちゃんとの生活を考えると、部屋の横幅を3.5〜4m幅くらいしっかり取るのが理想的です。

大人の身体やベッドの間に赤ちゃんが挟まってしまう事故を防ぐため、授乳時には大人が一度起き上がらないといけないように大人用ベッドとベビーベッドを直角に配置し、寝室を赤ちゃんにとっても安全な寝室にしましょう。

愛波:そう、まさに“安全地帯”にするのが第一ですよね。あと、日本人の「睡眠環境」で意外と抜けているのが“空調”です。赤ちゃんの身体に熱がこもるとSIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクが上がることも、日本ではあまり知られていません。日本の夏は、昨今ではかなり暑くなっていますので、「睡眠環境」を考えるときは、空調のこともぜひ考えてもらえたらと思います。

また、陽の光や家の照明は、子どもの睡眠にとても大きな影響を与えます。寝かしつけや眠りのことで悩んで私のところへ来てくださった方には、いつも「光を味方にしてください」と伝えています。子どもが寝るときは、基本的に照明はすべて消して、遮光カーテンを使い真っ暗な状態で寝るのが理想的です。

ポイントは、寝たときの状態をそのまま朝まで保つこと。遮光カーテンを使っていても隙間から光が漏れていると脳が反応してしまい“早朝起き”の原因になったりしますので、クリップやマジックテープで完全にシャットアウトします。

真っ暗な状態をどうしても怖がる場合は、天井についている常夜灯ではなく、足元をうっすら照らす“おやすみライト”を使う方が眠りの妨げになりにくくて良いです。これも途中で消したりせずに、つけるなら一晩中つけておくようにします。

02 スムーズに寝入るためのルーティン

愛波:イヤイヤ期の真っ最中だったりすると、寝かしつけ以前に、寝室に行くこと自体がそもそもイヤ!となってしまう時期もありますよね。そういうときがあって当然だと思いますが、それがずっと続くようなら、まず1日の生活リズムを確認してみてください。なぜその時間に眠くならないのか。昼寝の長さやタイミングを見直してみると良いと思います。

河﨑:それから、よく言われているのがお風呂に入るタイミングですよね。お風呂に入ると身体が温まりますが、そこから少し時間が経って冷えるときが、一番スッと寝入りやすいタイミングと言われます。

愛波:その通りですね。大人ですとだいたい入浴から1時間後、子どもだともう少し短くて40分後がそのスッと寝入ることのできるタイミング。スムーズに寝入ることができたときの最初の深い眠りでは成長ホルモンがたくさん分泌されるので、質の良い睡眠を得るためにも睡眠ルーティンを整えることが大切です。

また、ここでも光を上手く味方にしてほしいです。そろそろ寝る時間だからと急に家の明かりを落とすのではなく、たとえば、夕食が終わったらダイニングの明かりを消し、その後にテレビを消して間接照明に切り替えます。そのように家全体の照度を少しずつ落とすことで、身体と脳を眠りのフェーズに移していくのも有効的です。

河﨑:積水ハウスでは、そのようなルーティンを手助けできるようにレイアウトや動線を工夫しています。愛波さんにもぜひ、子どものいるファミリー向けのモデルハウス「小林さんち。」を見てもらいたいのですが、そこには2階に小上がりの畳コーナーがあります。

子どもを寝かしつけたい時間は夜の8時。そのちょっと前から2階に上がって、その畳コーナーでくつろぎながら、親は洗濯物をたたんだり、子どもと「明日何着る?」と相談しながら次の日の準備もそこですることをルーティンにしたり。そして、そのまま2階の洗面台で歯磨きを済ませ、テレビなどのノイズを感じずに寝室へ行けるように設計しています。