
2024/10/15
今回は、長年モンテッソーリ教育を広める活動をされている日本モンテッソーリ協会会長の佐々木信一郎氏をお招きし、お話を伺いました。モンテッソーリ園の園長として、多くの子どもとかかわるなかで、大切にしていること、そして、子育て中の親たちへのメッセージをいただきました。
佐々木信一郎
1958年、福島県生まれ。日本モンテッソーリ協会(学会)会長、こじか保育園園長、福島大学非常勤講師。福島大学大学院人間発達文化研究科修士課程修了。ミュンヘン小児センター(ドイツ)に留学し、国際モンテッソーリ教師資格を取得。こじか「子どもの家」発達支援センターなどでモンテッソーリ教育をはじめとする子ども支援に携わる。モンテッソーリ教育の発達障害児への適用で、日本愛護協会ほほえみ奨励賞を受賞。著書に『子供の潜在能力を101%引き出すモンテッソーリ教育』、『発達障害児のためのモンテッソーリ教育』(共に講談社)がある。
――まず、佐々木会長がモンテッソーリ教育を学ぼうと思われたきっかけは何だったのですか。
私は子どもの頃から学校が合わなくて、日本の学校教育に反発や批判がすごくあったんです(笑)。たとえば中学のとき、歴史が大好きだったので歴史しか勉強したくなかったけれど、先生に「国語も数学も英語もまんべんなくしないといけないよ」と言われて「なんで歴史だけだとダメなの?」という想いがすごくありました。
その後、モンテッソーリ教育と出会ったときに「学ぶとは偏ることだ」と(創始者の)マリア・モンテッソーリが言っていて、“その通り!”と思いました。学びとは、ひとつの興味関心から出発して、それを中心にいろんな方向に広がっていくもの。その過程の中で学びは深まっていくのです。
――モンテッソーリ教育を知ったのはいつごろですか。
高校生のときです。当時から、ただ知識を詰め込んでテストでいい点を取ることが良いという教育に疑問を持っていました。テストが終わったらみんなほとんどのことを忘れているよね? それが本当の学びなの?と。だから成績は悪かったです(笑)。
――でも、そこで周りが普通にやるべきだと思っていることに疑問を持ったからこそ、今があるわけですね。
その後にモンテッソーリ以外のいろんな教育の勉強もしましたが、やはり本当の深い学びとは、その人の興味関心からしか起こらないと確信しました。ですから、うちの保育園でも大好きなことをどんどんやりましょうと言っています。
あるとき、ひとりの先生から「この子はもうこの半年、毎朝登園してからずっと図鑑しか見てないですよ」と言われたことがありましたが、私は「それの何が悪いの?」と返しました。最初は眺めているだけでしたが、そのうち図鑑に書いてある文字が気になって、この字がこの絵を表しているらしいということがだんだんわかってきます。
その子はある日「これは何?」と聞いてくるようになって、自発的に文字を学び始めたら、もうあっという間。1ヶ月でその図鑑が全部読めちゃいました。そういう体験をすることで絶対に忘れないひとつの知識の体系が子どもの中に出来上がっていくわけです。これこそ受け身じゃなく主体的な学び。それが本当の学びなんです。
――その子の興味を理解して、見守ることで能力が発揮されていくんですね。
モンテッソーリ教育には「敏感期」という概念があります。0歳から6歳の敏感期は、その子たちの能力が一番花開くとき。自分の能力を発達させたいという願いが子どもたちの中に湧いていて、主体的に環境に関わってそれを獲得していくために一番ふさわしい時期です。
――0歳から6歳の敏感期に家庭で特に意識すべきことは何でしょうか。
日常生活の中で大切なこととして、モンテッソーリでは「誤りの訂正」という言葉があります。失敗を自分で訂正できるような環境づくりがすごく大切です。 多くの家庭や園では、失敗すると先生や親がすぐに正したり片付けたりして、失敗を怒られて終わりですよね。
そうではなく、失敗したときに子ども自身がどうすればいいのかが分かる環境を整えておくべきです。たとえば、何かを床にこぼしてしまったとき、ここの棚から雑巾を持ってきて拭いて、汚れた雑巾はこのバケツの中に入れておけばいいよ、と。それができる環境がきちんと準備されていると、子どもは自分で失敗や間違いを訂正していくことができる。それを大人がやってしまったら、子どもたちは経験ができない。
うちの園では2歳ぐらいでも誤りの訂正ができるように、子どもが分かりやすい物の配置や棚の環境を整えています。家でそういう環境をつくるのは大変と言われますが、私がよくご両親に言っているのは、100円ショップなどで磁石の付いているフックを2つ買ってきて冷蔵庫などに貼って「真っ白は台拭き、色付きは雑巾」と子どもに教えてわかりやすく掛けおくだけでいいんです。
「敏感期」のひとつに「秩序の敏感期」があります。この時期の子どもたちは私たちが思っている以上に秩序に対して敏感なので、こぼれたりしたらすごく気になるのです。だから拭きたいけど拭けるものがなかったり、やり方がわからなかったり。その状態をそのままにしているとだんだん何も感じなくなってしまう。でもきちんと準備しておいてあげたら、すぐ自分でできるようになります。
そして、同時期にもうひとつ重要なのが「運動の敏感期」です。子ども自身が粗大・微細運動を獲得したいと願う時期で、模倣期でもあり、主にお母さんがやっている家事にとても興味をもちます。その好奇心が、ティッシュペーパーを引き抜く、水道の蛇口をあける、ビンの蓋を開けて中身を出すなどのいたずらになるわけです。ここで「大人と子どもの戦争が起こる」と、モンテッソーリは言います。世界中どこの家庭でも、子どものいたずらに頭を抱える大人たちがいます。
そこでモンテッソーリは、子どもがやりたいなら、大人の生活とは別のところで、子どもの手のサイズに合った様々な日常の生活の用具を準備して、子どもの環境においてあげ、やりたいと興味を持ったとき、すぐに何回でも満足するまでできるような環境を創ることの大切さを説きました。
それから小学校になると、この運動が獲得されたために、家事などへの興味を失い、片づけなどもやりたがらなくなります。学童期は、知的好奇心がもっともっと高まり、抽象化の方向へ発達していきます。また、仲間関係を築き、どんどん自立していく時期でもありますね。