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2019.03.22vol.2 まちなか住宅7つの注意点と間取りのポイント

通勤や通学、お買い物など、生活面で便利なエリアや住宅地として人気の高いエリアに家を建てる場合、土地の確保がまず問題になります。お店や住宅などが建ち並ぶまちなかエリアでは土地の価格も高く、手に入ったとしても狭いということは、よくあるお話です。

そうなると住宅密集地の限られた土地に建てる住宅として、土地をいかに有効に使うかというだけでなく、周囲の環境などにも配慮しながら、いかに安全、安心、快適な住まいを実現するかということが課題になってきます。

そこで今回はまちなかに住宅を建てる際の7つの注意点に加えて、間取りのポイントを実例とともにご紹介します。

目次

1. まちなか住宅を建てる際の7つの注意点

限りある土地をできるだけ有効活用することはまちなかに住宅を建てる際の課題です。必要十分な住空間を確保するためには3階建て・4階建て住宅という選択肢も視野に入れておく必要があります。一方で、住宅の密集するまちなかでは、すでに建てられている住宅など近隣の建物との関係が大きな問題になってくるため、特に建物の高さがある3階建て・4階建て住宅は建築する際に様々な観点から注意が求められます。

まず、まちなかに住宅を建てる際の注意点を、3階建て・4階建て住宅を建てる可能性も念頭に置きながらご紹介します。

1-1. 街づくりのルールをチェックする

都市計画に沿った街づくりを進めていくために、都市全体の土地利用の基本的な枠組みが「都市計画法」により設定されています。これが「用途地域」と呼ばれるものです。例えば「第一種低層住居専用地域」「第二種低層住居専用地域」「商業地域」「工業地域」などの言葉を耳にしたことがあるかもしれません。用途地域は「住居系」「商業系」「工業系」の3つの系統に分かれており、全部で12種類あります。それぞれの用途地域で建築可能な建物の用途や規模などが大まかに定められています。

もし、検討している土地があるのなら、どの用途地域に該当するのかを知っておくことで、将来的にどんなものが近隣に建設される可能性があるのかの目安を得ることができます。都市計画図は市・区役所などの都市計画課などで入手できるほか、最近ではインターネットで都市計画図を閲覧できる自治体も増えています。

代表的な用途地域区分一覧

第1種低層住居専用地域 低層住宅のための地域
第2種低層住居専用地域 健ぺい率30~60%、容積率50~200%
第1種中高層住居専用地域 中高層住居のための地域
健ぺい率30~60%、容積率100~300%
第2種中高層住居専用地域
第1種住居地域 住宅のための地域
健ぺい率60%、容積率200~400%
第2種住居地域
準住居地域
近隣商業地域 近隣の生活を支える商店エリア
健ぺい率60%、容積率200~400%
商業地域 商業その他業務のためのエリア
健ぺい率80%、容積率200~1000%
準商業地域 環境を悪化しない工業中心地域
健ぺい率60%、容積率200~400%
工業地域 主として工業の利便を増進するための地域
健ぺい率60%、容積率200~400%
工業専用地域 住宅は建設できない

出典:上記の表は都市計画法第9条による用途地域に基づき、主として建築基準法令の規定による用途制限に関する規制のうち建ぺい率・容積率を中心にまとめたもの

1-2. 土地によって決められた建物の大きさに従う

防災や風通しなどの観点から建築基準法により「建ぺい率(建蔽率)」と「容積率」が定められています。建ぺい率とは「敷地面積(建物を建てる土地の面積)に対する建築可能な面積の割合」のことです。例えば建ぺい率50%という場合、敷地面積の半分までの建築面積の建物を建てることができます。

「容積率」は「敷地面積に対する延べ面積の割合」を算出して、制限するための基準です。「延べ面積」とは、各階の「床面積」を合計した面積のことを言います。したがって、容積率は「土地に対して何階建ての建物を建てることができるか」を定める基準ともいえます。ただし、延べ面積には「玄関」「バルコニー、ベランダ」「ロフト」などは含まれません。

また、容積率は市町村ごとの都市計画で定められていますが、そのまま適用されるわけではなく、建物の前面道路の幅によっても左右されるので注意が必要です。

このように土地によって建ぺい率と容積率という基準があり、建物の規模が規制されていますが、一方で緩和措置もあります。建ぺい率の緩和条件は建ぺい率80%の地域以外(30・40・50・60%)で、「防火地域」の「耐火建築物」であれば用途地域で規定された建ぺい率に10%を加えることが可能です。また「角地」の敷地ならば、延焼を防止し、風通しにも影響がないと考えられるため、建ぺい率を10%加えることができます。

さらに、容積率では「地下室」「ビルトインガレージ」などの面積を割り引いて換算する緩和措置が設けられています。なお、土地の仲介業者は購入希望者に対して、「その土地がどの用途地域に属するか」と「その土地の建ぺい率」を必ず伝える義務があります。同じ面積の敷地でも建ぺい率と容積率が異なれば、建てられる建物も変わってくるので、しっかり把握しておくことが大切です。

出典:上記の「建ぺい率」および「容積率」の図は、建築基準法第52条および第53条をもとに作成

1-3. 接している道路によっては建築可能面積等が規制される

もう一つ建物の大きさが制約をうけるルールとして「道路制限」があります。建物を建てる時には、原則として建築基準法上の道路に敷地が2m以上接していなくてはなりません。大規模な開発による造成地であれば、この道路規制について注意を払う必要は少ないと考えられますが、数区画程度の造成地を分譲するミニ開発などでは、効率的に敷地を分割するために、建築基準法上の道路に敷地が2mしか接していないケースも見受けられます。確かに、建築基準法の基準は満たしていたとしても、実際に生活する上で、車の出し入れや住まいへの出入りに支障をきたす場合があるかもしれません。

出典:上記の「道路制限」の図は、建築基準法第43条および第42条第1項をもとに作成

「建築基準法上の道路」という言葉が、何度かでてきましたが、これは原則として4mの幅員をもった道路のことを指します。しかし、建築基準法が施行されたのは昭和25年のことなので、その時既に、建築物が建ち並んでいる幅員4m未満の道路でも、特定行政庁の指定したものであれば道路とみなすという規定もあります。ただし、幅員4m未満の道路に接する場合は、その道路の中心線からの水平距離2mの線をその道路の境界線とみなすことになります。そして、その分後退(セットバック)した土地の面積については、建ぺい率・容積率の計算上の敷地面積に算入されないことになり、その部分には建築できないということになります。いくら気に入った土地があっても、接している道路によっては、建築可能面積等に規制を受ける可能性があることを知っておきましょう。

出典:上記の「道路制限」の図は、建築基準法第43条および第42条第2項をもとに作成

1-4. お互いに日照を確保するためのルールを守る

建物が密集するまちなかではお互いの住まいの日照を確保することが必要です。このため、地域によっては建物の高さについて建築基準法により制限が設けられています。高さに関する規制の主なものは「斜線制限」です。「斜線制限」は、基本的には日照を確保するために定められている規定で、次の3つがあります。

道路斜線制限 道路上方を開放することで、道路面などの日照を確保することが目的。具体的には建物の高さを、前面道路の反対側の境界線から伸ばした一定の勾配の斜線の中に収めなくてはならないという規定。都市計画区域内にある地域であれば適用される。
隣地斜線制限 道路斜線制限によって道路上方を開放し、道路面の日照を確保したために、隣の家の日照や風通しなどに支障が出ることのないよう、都市計画区域内で、第一種・第二種低層住居専用地域を除くすべての区域に適用される規制。具体的には、建物の高さを隣地境界線から一定以上の高さを起点として伸ばした斜線の範囲内に収めなくてはならないという規定。
北側斜線制限 第一種・第二種低層住居専用地域と第一種・第二種中高層住居専用地域において適用される。具体的には、建物の高さを北側にある隣地の境界線上の一定の高さを起点として伸ばした斜線の範囲内に収めなくてはならないという規定。

出典:上記の「斜線制限」の表およびイラストは、建築基準法第56条第1項をもとに作成

このように日照確保のために様々な形で高さ制限を受ける地域で、狭小住宅として少しでも住空間を広げるために3階建て・4階建て住宅を建てることはできるのでしょうか。3・4階建てで斜線制限をクリアするためには、建物の屋根を規定の勾配で切り落とした形にすることが有効です。一方向だけでなく、立地条件によっては2方向を切り落とした形状にすることもあります。こうした屋根の形状が容易にできる構造を持った住宅は、斜線制限にも柔軟に対応することができ、敷地を有効活用することにつながります。

また、高さが制限される場合、各階の天井高を変えることで、建物全体で高さ制限をクリアしながら、各階に設けた部屋の用途に合わせた快適な空間を実現することもできます。

各ハウスメーカーでどこまで対応できるのか、その違いによって夢のマイホームの姿に大きく影響してしまうことがあるので、前もって確認しておくことが大切です。

■ 積水ハウスの斜線対応例

■ 積水ハウスの高さ制限対応例

さらに、平成15年の建築基準法の改正により従来の道路斜線が緩和される「天空率」という制度が設けられました。この天空率を理解し、利用することのできる設計士は、いざというとき心強い存在になります。

1-5. 火災時の延焼を防ぐためのルールに従う

建物が密集する都市部において、万が一、火災が起きてしまったときにできる限り延焼しないようにという目的で”都市計画法”によって「防火地域」と「準防火地域」が定められています。これらの地域に住宅を建てる際には、建築基準法によって、構造や使う材料に一定の基準が設けられており、この基準に則った住宅でなければ建てることはできません。

「防火地域」と「準防火地域」それぞれに、建物の延べ床面積や階数に応じて、「耐火建築物または準耐火建築物」にしなければならないという制限があります。一方、「防火地域」であっても、例えば、延べ床面積が50平方メートル以内の平屋の附属的な建築物で、外壁と軒裏が防火構造の建物など、防火地域の制限が適用されない場合もあります。

■ 防火地域内の建築物の構造制限の概要

出典:上記の表は建築基準法第61条をもとに作成

「準防火地域」では建物の制限は防火地域よりも緩やかです。ただし、多少の制限はあって、木造2階建てまたは平屋建ての場合は、外壁や軒裏や防火構造にする必要があります。これは、火災時の隣地への延焼を防ぐためです。また、木造3階建ての場合は、外壁の開口部の構造と面積、主要構造部の防火措置について一定の技術的基準が定められていて、これに適合する建築物にしなければなりません。また、建築基準法とは別に自治体ごとの決まりがある場合もあるので注意が必要です。

■ 準防火地域内の建築物の構造制限の概要

※地階:建築基準法の定義では、床面が地盤面より下(地下)にあり、その低さが天井高の1/3以上ある階のこと。
出典:上記の表は建築基準法第62条をもとに作成

「耐火建築物」とは、一般的には鉄筋コンクリート造の建物のことです。以前は鉄筋コンクリート造、鉄骨造などでしか建てられませんでした。最近では、木造の耐火性能が向上したため、国土交通大臣の認定により、木造住宅も建築可能です。「準耐火建築物」とは、耐火建築物ほどではないものの、壁や柱、床、梁(はり)などの構造物を国土交通大臣が定めた構造方法でつくり、窓や扉などの開口部は火災の延焼を防ぐ防火戸にするといった、防火対策が施された建物のことをいいます。

1-6. 隣地との境界線から最低50cm以上離して建てる

民法234条では隣地境界線から住宅の外壁の間に最低50cm以上の空きを設けなければならないことが定められています。

出典:上記の「隣地境界線」の図は、民法234条をもとに作成

これは火災時の隣家への延焼を防ぐことなどを目的に定められたルールですが、先ほどお話しした、防火地域内で耐火建築物を建てる場合は、隣地境界線に接して建てることができます(建築基準法第65条)。加えて、第1種・第2種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域で建ぺい率が80%の地域では建ぺい率の制限をなくし、それ以外の地域では法定の率より10%緩和されます。

とはいえ、あまりに隣地境界線ギリギリに建てると、エアコンの室外機を設置する際などに問題になってきます。具体的には、隣地との境界に設けられたブロック塀と自分の家の外壁の間があまりにも狭い場合、ここに室外機を置いてしまうと、エアコンの効率が落ちたり、故障の原因になる場合があります。もちろん室外機を向ける方向によっては、ご近所とのトラブルにもなりかねません。

さらに民法235条では隣地境界線から1m以内にある窓や縁側などは、目隠しをするように定められています。これはいうまでもなくプライバシーへの配慮から定められたルールです。3・4階建てでは窓やバルコニーから隣家を見下ろすことになりがちなため、1m以内でなくても、そうした配慮をしたいものです。

近隣との関係ということでは、3階建て以上の建物を建てる場合には、中高層条例によって、近隣説明が義務付けられているエリアもあります。例えば、工事が始まる1カ月前からご近所に工事内容をお知らせする看板を掲示し、要請があれば説明会を開く必要のある地域もあります。こうしたことも、家づくりの専門家に相談できると安心ですね。

1-7. 生活音や生活振動、交通振動に備える

まちなかで狭小住宅を建てる場合、2階建てよりも3階建て、3階建てよりも4階建てのほうが居住空間が広くなるのは当然のことですが、そうなってくると気になるのが上下階の音漏れの問題です。

特に二世帯同居を考えた場合、親世帯と子世帯では生活時間にズレがあったり、孫たちが上の階ではしゃぐと下の階のおじいちゃん、おばあちゃんの部屋に振動が伝わってうるさかったりすることがあります。このため、2階床や3・4階の床の音漏れや生活振動の対策を建築時から考えておくことが大切です。

また、音の問題は、わが家の中だけにとどまりません。建物が密集する住宅街では、家からの音漏れの問題を軽減する必要があります。自分たちの家から出る音を遮断あるいは軽減するだけでなく、他の家から漏れてくる音を遮断あるいは軽減することで、隣り合うもの同士が快適に過ごすことができます。騒音はご近所トラブルの上位に挙げられる深刻な問題です。住み始めてから対策を検討するよりも、プラン段階から配慮しておくことが重要です。

さらに、まちなかでは道路に面して建てられることも稀ではないため、自動車の通行による振動の影響を受けることがあります。これは建物がそれぞれ固有の振動数を持っており、道路を通行する自動車などに起因する地盤の振動数がその建物固有の振動数に近づくことで「共振」という現象が発生し、揺れが増幅されて、不快に感じる横揺れが生じる事があるためです。これを交通振動といいます。

積水ハウスは、オリジナル技術「マルチTMD」を標準搭載。交通振動を大幅に低減させるために標準搭載された装置について興味がある方は、積水ハウスの 「3・4階建てテクニカル」カタログをおすすめします。

2. まちなか住宅を広く暮らすための間取り

まちなかで見られる狭小住宅で、快適な生活空間を実現するためには3・4階建て住宅は有効な手段です。とはいえ、1フロアの面積が敷地以上に大きくなるわけではないので、できるだけ無駄なスペースを無くして生活空間を広げるだけでなく、実際の広さより大きく見せる工夫も求められます。また住宅の密集するまちなかでは、家の北側からも自然光を取り込む工夫や風の通り道を確保して、快適な住空間を実現することも大切です。

ここからは、積水ハウスの実例をもとに、間取りのポイントを具体的にご紹介します。

2-1. 3階リビングで大きな開口部を実現

例えば、限りある土地をできるだけ無駄なく使いたい狭小住宅。横への広がりには限界がありますが、縦に生活空間を広げていくことで、小さくてもゆとりが感じられる暮らしを実現することができます。

敷地内に庭や駐車場を確保したい場合には、3階建て以上がおすすめです。1階には駐車場と小さな庭を確保し、2階には居室と洗面・浴室を。3階にLDKを持って来れば、広く開放的な空間で眺望を楽しみながら食事や団らんができるようになります。階によって用途を分けることで、お客さまをお招きする空間と家族だけのプライベートな空間を切り分けることも可能。

また、二世帯同居住宅ならば、2階にLDKを設けて各世帯の共有スペースにし、1階と3階の生活音を遮りながら、親世帯・子世帯が快適に過ごすこともできます。

さらに、3階建ての屋上を家庭菜園やスカイガーデンにすることで、開放感を味わいながら収穫や食事などを楽しむこともできます。このように、空に近づくことで、狭小住宅の課題解決にも近づくことができるのです。

2-2. 無駄な廊下はつくらない

狭小住宅は広さに余裕がないだけに空間をどう有効活用するかによって快適さが左右されます。できるだけ余分な空間を省くように間取りを検討することがポイントです。特に、通路の役割しか果たさない廊下はできるだけつくらない間取りがおすすめです。

例えば、マンションの間取りのように玄関からLDKに続く廊下を挟んで両側に部屋が来るようにレイアウトすると、廊下の分だけスペースを奪われることになるので、狭小住宅では各部屋がさらに小さくなってしまいます。

そこで有効なのが「田の字型」の間取り。本来は日本の伝統的な住まいによくみられた間取りで、台所・茶の間・客間・寝間などが田の字型に配置され、それぞれが襖や障子で仕切られていました。これだと、各部屋の行き来は襖や障子を開けて、部屋を通りながら回遊していくことができます。まず、廊下が必要ないのでスペースを広く使え、回遊式に各部屋が連続していくことから実際よりも広く感じられます。この発想を現代の暮らしにマッチするようにアレンジするのがポイントです。

例えば、3・4階建てならば階段を中心に、LDKや居室をレイアウトすることで、各階を行き来する通路を確保しながら、各階にある部屋にはできるだけ廊下を設けない空間が実現できます。

2-3. 視線の抜けをつくる

遠近法のように絵画でも奥行きを感じさせる描き方がありますが、似たような手法を用いることで空間に広がりを感じさせることができます。例えば、天井近くまであるハイサッシを使えば、室内に光をゆきわたらせることができるだけではありません。空間の一部として空がより遠くまで見えるので、空間そのものに広がりを感じるようになります。同じような理屈で大きな鏡を要所に取り付けることで、広く見せることもできます。また、小さな家だからこそ上下階に吹き抜けを設けることで広さを演出することもできます。

人が空間を感じる時、最も遠い距離にあるのは対角線です。これを「最大視覚」といいます。この最大視覚を上手に使って、対角線が意識できるような空間構成を設計や家具配置の段階で検討することが大切です。対角線は空間の中心を通るため、対角線上に家具などを置かないこともポイントになります。

さらに、空間のコーナー部分で視線が止まらないようにするとどうでしょう。

具体的には、部屋の隅を構成する壁をコーナーサッシなどを使って、家の外に視線が抜けるようにします。ちょっとした工夫ですが、コーナーを閉ざすことなく視線が外につながることで、圧迫感が薄れます。その視線の先に緑が眺められるようにすると生活空間に潤いが生まれます。コーナーサッシの視線の先に庭を設けることができれば、そこに樹木を植えるとよいでしょう。庭が設けられない場合でも、立地によっては外からの視線を避けながら公園や街路樹の緑を取り込むこともできます。

2-4. 風の通り道をつくる

まちなかの狭小住宅では採光とともに通風をどう確保するかが問題になります。日本はアジア大陸の東の端に沿うように東西に長く延びる島国で、大まかにいうと南には太平洋があり、北には日本海を挟んでアジア大陸が広がっています。この太平洋とアジア大陸の影響を受けることで、基本的には南北に風が吹くことになります。

東京23区内に家を持ちたいと考えた場合、やはりこの南北に風が吹く状況を頭に入れて間取りを考えることが大切です。例えば、LDKを南北のラインに沿って配置し、南側と北側に窓や勝手口を設けるようにすると風が通り抜けるようになります。もっと大胆に、南北をつなぐ通り土間を家の中心に設ける、それに面するように部屋を配置すると風が家全体を通り抜けるようになります。

また、室内の通気をよくするには上下に窓を設置することも有効です。空気は暖められると軽くなり、上昇していくという性質を持っています。この性質を利用すれば、室内に空気の流れを生むことができます。暖められて軽くなった空気の動く先に窓を設けておくと自然な換気を促すことができます。

2-5. 上から降り注ぐ光を取り込む

住宅が肩を寄せあうようにひしめき合う地域では、思うように室内に光を取り込むことが難しいケースがあります。そんな時は、「上に開く」ことを考えてみましょう。

例えば、上に開き、建物と壁で囲われた中庭は、周囲の視線を遮りながら、空からの光や風を取り込むことができます。中庭に向かって窓を設けることで、プライバシーを確保しながら明るい空間で生活できます。

中庭を設けるスペースがない場合は、同様の手法をバルコニーで使うことで、外部からの視線を気にすることなく、光を室内に取り込むこともできます。

また、天窓から室内に光を取り込むのも良い方法です。住宅が密集しているエリアでは、奥側に設けられた部屋に、光も風も入らないということになりかねません。そんな時は、あえて敷地の奥に庭をつくることもおすすめです。

自分の家だけでなく、近隣も巻き込んだ風通しや視線の広がりをつくることができ、暗くなりがちな庭に光を届けることができます。

2-6. ウチとソトを曖昧にする

「ここからがソト、ここからがウチ」と、つい境界を設けてしまいがちです。だからこそ、ウチとソトの境界を曖昧にすると、自然を身近に感じやすくなり、空間にも暮らしにも広がりが生まれます。

自分でも気がつかないうちに境界として認識するものの一つに段差があります。段差は移動する際にも障壁になりますが、視覚的にも境界として認知されます。逆に、バルコニーと居室がフラットにつながることで、ウチとソトを行き来しやすくなるのは、移動面だけでなく気持ちの上でも空間のつながりが認識されるからです。

また、人はまず視覚で空間を構成する要素を認識します、このためウチとソトを明確に分けたい時は、色や素材など異質なものを組み合わせることで境界が認識されやすくなります。逆に、床や壁などの素材や色を同じものにし、連続させることでウチとソトを曖昧にすると、空間に広がりを感じられるようになります。

2-7. オーバーハングを利用する

東京のように公共交通機関の発達した都会では、車離れという話題もよく耳にします。しかし、結婚し、子どもを持つ家庭では、週末にドライブやキャンプなどのレジャーに出かけるため、自動車を所有することは珍しいことではありません。

また、自動車だけでなく自転車やバイクなど、車は現代の暮らしに欠かせない交通手段であることに変わりありません。それだけに、駐車スペースに関する要望は様々です。特に都市の住宅密集地では駐車場を借りるにしても、近くに見つからないことや賃料が高額なケースはよくあることです。理想は敷地内に駐車スペースを確保することですが、狭小住宅の場合、建物に必要なスペースと駐車スペースの取り合いになることもあり、駐車スペースの確保が難しいこともあります。

そんな時は、オーバーハングがおすすめです。オーバーハングというのは建物の1階の床面積を抑えて2階の床の方を大きく張り出すように設計する手法のことをいいます。このオーバーハングを利用すれば2・3階の生活空間を広くすることができ、張り出した2階の下の部分を駐車スペースとして活用することができます。2階が張り出しているため、その下の部分は雨の日でも濡れることなく自動車に乗り降りできます。

2-8. 収納は奥行きより幅で考える

収納はどんな家でも気になるところですが、特に狭小住宅ではどうやってスペースを確保するかが大きな問題です。

例えば、階段の下部などは、書斎コーナーやトイレなどに利用することができますが、収納スペースにすることもできます。クローゼットのように閉じるタイプも可能ですし、オープンにして本や小物を置いて見せる収納にするのもいいでしょう。

また、廊下などに沿って壁面が長く続く場合には、その壁を使った収納がおすすめです。間口が狭く、奥行きが深い収納は物の出し入れに苦労しますが、長い壁に沿って設けた浅い棚の収納は、物の出し入れもしやすく、たくさん収納できます。狭小住宅の収納のポイントのひとつは「奥行きではなく幅で考える」ことと言えます。

3. まとめ 理想のまちなか住宅を実現するために

いかがでしたか。今回はまちなかで住宅(狭小住宅を含む)を建てる際に、知っておいた方がよい基本的な事柄を中心にご紹介しました。

実際の家づくりは、現地・現場にあわせて、もっと細かく検討していく必要があります。

「家づくりはまず敷地から」。

お客様が既に家を建てるための土地をお持ちの場合、まずお客様の建築予定地に足を運び、土地の大きさや形状、高低差など、その敷地が持つ諸条件を分析・整理します。また、地盤や近隣の建物の状況、採光・通風などの敷地を取り巻く環境もチェック。さらに、その土地にかかる建築基準法や条例などの法的規制を調べていきます。これらの制約を解決しながら、住まわれるご家族の想いを形にしていくことが、理想の家づくりへの第1歩です。

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