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物納に関する勘違い 借地人に賃貸している賃貸地は物納できない?

税理士法人 ファミリィ 代表社員・税理士 山本和義

物納の現状等について(続き)

3. 物納財産の種類と物納順位

物納に充てることができる財産は、納付すべき相続税額の課税価格の計算の基礎となった相続財産のうち、次に掲げる財産(相続財産により取得した財産を含みます。(注1))で、次に掲げる順位によることとされています。

順位 物納に充てることのできる財産の種類
(平成29年4月1日以後の物納申請から)
第1順位
(注2)
(注3)
  1. 1不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(注4)(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含み、短期社債等を除く。)
  2. 2不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第2順位
(注3)
  1. 3非上場株式等(注5)(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含み、短期社債等を除く。)
  2. 4非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第3順位
  1. 5動産(注6)
(注1)
相続財産により取得した財産とは、①合併によって取得した株式等、②株式の消却、資本の減少又は出資によって取得したもの、及び③増資によって取得した株式等(旧株式を物納税額に充ててもなお不足額がある場合に限ります。)とされています。
(注2)
たな卸資産である不動産も含まれます。
(注3)
特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券とは、商工債又は農林債又は長期信用銀行債等の金融債、放送債券、都市基盤整備債権等の政府機関債、日本銀行出資証券をいいます。
(注4)
上場株式等とは、次のものを指します。
○金融商品取引所に上場されている次の有価証券
  • 社債券(特別の法律により法人の発行する債券を含み、短期社債等に係る有価証券を除く。)
  • 株券(特別の法律により法人の発行する出資証券を含む。)
  • 証券投資信託の受益証券
  • 貸付信託の受益証券
  • 新株予約権証券
  • 投資信託の受益証券(証券投資信託を除く。)
  • 投資証券
  • 特定目的信託の受益証券
  • 受益証券発行信託の受益証券
○金融商品取引所に上場されていない次の有価証券で、その規約又は約款に投資主又は受益者の請求により投資口の払戻し又は信託契約の一部解約をする旨及び払戻し又は当該一部解約の請求を行うことができる日が1月について1日以上である旨が定められているもの
  • 投資法人の投資証券
  • 証券投資信託の受益証券
具体例
上場されている 社債、転換社債型新株予約権付社債、特殊法人債、特定社債権、株式、優先株式、新株予約権証券、ETF、REIT、JDR、ETN、日銀出資証券、優先出資証券、特定目的信託の受益証券 等
上場されていない オープンエンド型の証券投資信託の受益証券
オープンエンド型の投資法人が発行する投資証券
(注)目論見書又はこれに類する書類で当該解約又は払戻しの請求を行うことができる日が1月につき1日以上であることを明らかにする書類の提出が必要となります。
(注5)
非上場株式等とは次のものを指します。
○金融商品取引所に上場されていない次の有価証券
  • 社債券(特別の法律により法人の発行する債券を含み、短期社債等に係る有価証券を除く。)
  • 株券(特別の法律により法人の発行する出資証券を含む。)
  • 証券投資信託の受益証券(第1順位のものを除く。)
  • 貸付信託の受益証券
(注6)
相続開始前から所有していた特定登録美術品は、上の表の順位によることなく物納に充てることのできる財産とすることができます。この場合、評価価格通知書の写し(文化庁長官に価格評価申請書を提出して入手します。)を提出します。特定登録美術品とは、「美術品の美術館における公開の促進に関する法律」に定める登録美術品のうち、その相続開始前において、すでに同法による登録を受けているものをいいます。

しかし、質権、抵当権その他の担保権の目的となっている財産、所有権の帰属について係争中の財産、共有財産(ただし、共有者全員が持分の全部を物納する場合や共有持ち分に応じて分割した場合などを除きます。)、譲渡に関して法令に特別の定めのある財産は、管理又は処分が不適当な財産であるため物納が認められません。

なお、物納は各相続人ごとに申請することとなります。申請する場合には相続税の納期限までに手続きを行い、かつ、相続した土地などの売却により金銭納付する場合との有利不利などについて充分な検討が不可欠です。

4. 物納適格財産と物納劣後財産の区分

<物納不適格財産である不動産>
1 担保権が設定されていることその他これに準ずる事情がある不動産
2 権利の帰属について争いがある不動産
3 境界が明らかでない土地
4 隣接する不動産の所有者とその他との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産
5 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で囲繞地通行権の内容が明確でないもの
6 借地権の目的となっている土地で、当該借地権を有する者が不明であるもの
7 他の不動産と社会通念上一体として利用されている不動産・共有に属する不動産
8 耐用年数を経過している建物
9 敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産
10 管理処分を行うために要する費用の額がその収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産
11 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある目的に利用されている不動産
12 引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産
13 地上権、賃借権その他の権利が設定されている不動産で、その権利を有する者が次に掲げる者であるもの
  1. 暴力団員その他一定の者(以下「暴力団員等」という)
  2. 暴力団員等が役員となっている法人
  3. 暴力団員等が事業活動を支配する者
<物納劣後財産である不動産>
1 地上権・永小作権若しくは耕作を目的とする賃借権・地役権等が設定されている土地
2 法令の規定に違反して建築された建物及びその敷地
3 土地区画整理法等による事業が施行され、仮換地等の指定がされていない土地
4 現に納税義務者の居住の用又は事業の用に供されている建物及びその敷地
5 劇場・工場・浴場その他の維持・管理に特殊技能を要する建物及びこれらの敷地
6 建築基準法に規定する道路に2m以上接していない土地
7 都市計画法における開発行為に適合しない土地
8 都市計画法に規定する市街化区域以外の区域の土地
9 法令の規定により建物の建築をすることができない土地 など

5. 物納による収納価額

物納財産の収納価額は、原則として課税価格の計算の基礎となったその財産の価額(相続税評価額)となります。しかし、「収納時までに著しい状況変化のあったときは収納時の現況により税務署長が定めた価額」で収納されます。収納価額の改定は原則として、物納許可時の状態で相続又は遺贈によって取得した時にあったものとして、その取得した時における価額によってその収納価額を定めることとしています。

例えば、相続発生時に「貸家建付地」又は「貸宅地」の状態にあり、近い将来に立退き等で更地になる予定の土地があれば、その土地を物納財産とすれば、貸家建付地又は貸宅地として低い評価で相続税を負担し、物納で収納される時までに、立ち退き等により更地にすることにより高い価格で相続税に充当することが可能となります。

※本サイトに掲載の内容は、令和5年6月現在の法令に基づき作成しております。

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