知っておくべき、14のシカケ

「子どもにとって良い環境をつくりたい」。きっと子どもを持つ親なら誰もが考えることですが、ではどんな環境なら子どもは健やかに成長するのでしょうか。実は子どものための「環境づくり」の第一歩は、まず大人の意識を変えること。モンテッソーリ教育で大切にしている「子どもと大人と環境の関係性」とは?
今回は、妊娠中にモンテッソーリ教育の本を読んで共感したというミュージシャンの坂本美雨さんをお招きして、日々どんな想いで子どもとの暮らしに向き合っているのか、モンテッソーリ教師あきえ先生と一緒にお話しいただきました。

坂本美雨

1997年『Ryuichi Sakamoto featuring Sister M』名義でデビュー。音楽活動に加え、執筆活動、ナレーション、演劇など幅広い表現活動を行っている。2018年6月、児童虐待防止活動「#こどものいのちはこどものもの」を犬山紙子氏らと発足。長年、動物愛護活動にも携わり、著書『ネコの吸い方』や愛猫サバ美が話題となるなど、「ネコの人」としても知られる。2015年、出産。2022年6月、長女「なまこ」ちゃんとの暮らしを日々つづったエッセイ『ただ、一緒に生きている』(光文社)を出版。

モンテッソーリ教師 あきえ

公立の幼稚園教諭をしていた頃、日本の一斉教育に疑問を抱きモンテッソーリ教師に。2016年、2021年生まれの娘の母。現在は「子どもが尊重される社会」を目指して、モンテッソーリ教育に沿った子どもや子育てについての発信している。2021年からオンラインコミュニティ「Park」の主宰、2022年から子育てのためにモンテッソーリ教育を学べるオンラインスクール「モンテッソーリペアレンツ」の運営、ベビーブランド「mu ne me(ムネメ)」を開始。毎朝5時に「モンテッソーリ子育てラジオ」を配信中。

01 どんなに小さな子どもでも、その行動には理由がある

――お2人はモンテッソーリ教育のどんなところに共感されたのですか?

あきえ先生:私はもともと幼稚園教諭として働いていたのですが、みんなで一斉に同じことをする教育に少し違和感を抱いていて。そんななかで長女を出産したとき、新生児一過性多呼吸という呼吸がうまくできない状態になってNICU(新生児集中治療室)に入ったんです。生後20日経って、やっと初めてわが子を抱っこできたとき、“唯一無二の存在”ということを強く実感しました。

幼稚園教諭としてこんなに大切な存在をお預かりしてきたことの責任を改めて感じ、違和感を抱いているなら何かアクションを起こさなければと思いました。そして、独学で教育を学び直して、モンテッソーリ教育の「子どもを尊重し、自ら選べるように大人はサポートする」という考え方こそがヒントになるのではないかと思い、国際資格を取ったんです。

美雨さん:すごい行動力ですね。私は妊娠中に、夫が子どもに関する書籍をいくつかセレクトしてくれて、その中の1冊に(創始者の)マリア・モンテッソーリさんの書いた本がありました。本屋さんに溢れている教育の本はどれもあまり興味が持てなかったのですが、その本だけは本当にぐいぐいと読み進められて、すごく納得できたんです。

モンテッソーリ教育は、子どもの個性を尊重し、どんなに小さな子どもでもその行動には理由があるから、大人は見守り援助するだけという考え方ですよね。それが、私が以前から抱いていた「子どもは親の一部や分身ではなく、別の独立した人間」という感覚にぴったり合ったんです。“育てる”というのも何か違うなと思っていたので、大人は子どもに1から何かを教え込んだりする存在ではなく、子どもが自分の意思で行動するのをサポートすることが大切だと教えてもらって、気持ちが軽くなりました。

あきえ先生:美雨さんはもともと子どもの個性、その子らしさや個々のペースを大事にされているからこそ、スッとマリア・モンテッソーリの言葉が入ってきたんだと思います。私はいろいろな保護者の方から子育てについてご相談をいただきますが、お子さんを無意識のうちにコントロールしようとして苦しんでいる方も結構いらっしゃって。“別の人格で、別の人生。その子が育っていく、その人生の道のりはその子のもの”ということはまずお伝えしています。

美雨さん:そうですよね。私は、生まれた瞬間にもう、違う人間の違う人生が始まったんだなと感じました。だってそもそも計算通りにいかないじゃないですか。赤ちゃんはおくるみでギュッと上手に包んだら落ち着くと言いますけど、うちの子は全然ダメで(笑)。すごい力で抜け出して。 “あ、この人は自分の意思があるんだな”と実感して、娘の意思に任せようと。そう思えたのはモンテッソーリの本のおかげだと思います。

自分の人生ですら思っていたのと全然違う道に進んだりもするし、ハプニングもあるし、災害もある。どんな場面においても娘には生き延びてほしいから、自分で自ら生きる力を身につけてほしいですね。

02 親の意識が変わると子育ての見え方が変わる

美雨さん:私はイヤイヤ期と呼ばれる時期のことをすごく恐れていたんですけど、モンテッソーリ教育の「秩序の敏感期」という概念を知って、怖くなくなりました。その時期、本人はまだ言葉でうまく説明できないけれど、その子なりのこだわりや理由があって、その子の世界のとらえ方とちょっと違ったときにものすごく不安を感じたりすると知って。たとえば、お父さんがいつもと違う眼鏡をかけているだけで、その子が頼りにしている秩序が崩れて猛烈に怖くなったり、反発したり……。そう考えると、とっても愛しく感じるようになりました。

もちろん、どうしても言うことを聞かなくて困る場面もたくさんありましたけど、根本的に違う人間だから違うこだわりがあるし、大人にとってたいしたことではなくても、この子にとってはすごく大きな問題なんだ、と考えられただけで気持ちがラクになりました。

あきえ先生:本当にそれを知っているだけで、同じことでも見え方が違ったり、認知が変わったりしますよね。私は2人の娘がいて、タイプがまったく違うのですが、この場面でどうかかわることがその子にとってベストかなと常に考える視点は、間違いなくモンテッソーリ教育の教えから学んだことです。

その考えが自分の中にインストールされているから、そのとき対応に困ったり今できなかったりしても、この子のペースで自ら育っていく力がある、焦らず必要なかかわりをしていけば、必ずこの子の持つ力はそのときどきで発揮されると、心底信じ切ることができます。もちろんかかわり方には迷うこともありますが、考え方はブレないですね。

美雨さん:私もその考え方がインストールされているとはいえ、心配性なのであらゆることを予防したくなってしまうところがあります。モンテッソーリの園は刃物を使うのが早く、娘も2歳ぐらいからハサミや針を使っていたので、手先が器用になったのは良かったのですが、親としては怖いなと思うこともありました。そこでその子の力を信じて見守ることを親が訓練されたと思うし、今も引き続きいろんな場面において家庭内でも試されている気がします。この子にはできる力がある、この子の判断を信じる、という意識が年々より必要になってくるなと感じています。

あきえ先生:モンテッソーリの園では子どもが自分でその日やることを選ぶので、子どもも自己選択が日々のなかですごく積み重ねられて、子ども自身の意識も変わりますよね。自分で判断して選択できる力が育っていくことは、主体性にもつながっていると思います。