男性育休白書
2021特別編
男性育休の浸透にはまだまだ課題が多い。
役職や世代など様々な層に分けて実態を調査しました。
男性育休の認知と理解度
Q勤め先の男性育休に
ついて知ってる?
経営層
部長層
一般層
理解率は27.1%
勤務先の男性育休制度について、経営層や部長層などのマネジメント層は高くなっていますが、一般層は41.3%が知らないという結果に。
育休取得意向と、企業の対応
Q勤め先は、
男性育休を促進してる?
経営層
部長層
一般層
ここでも経営層や部長層と一般層で差が開きました。会社側は「促進している」つもりでも、働く現場には届いていないのかもしれません。
マネジメント層が抱える男性育休の壁
Q促進しない理由は?
企業規模が
小さい
代替要員の
手当てができない
ほかの従業員の
負担が大きい
Q従業員が男性育休を
取得したときの気持ちは?
家族も大切に
してほしい
人手不足で
業務に支障が出る
経営層や部長層がなかなか育休取得を促進しない理由には「リソースの確保」が大きな課題となっています。背中を押したい気持ちはあるものの、困りごとが頭をよぎってしまうようです。
男性育休取得と企業イメージ
Q男性育休取得には賛成?
経営層
就活層
Q男性育休を
推進してる企業を選びたい?
Yes
<就活層の声>
・多様な働き方への理解がある(58.3%)
・従業員のことを考えていると思う(54.0%)
就活層の97.8%が男性育休に賛成するなか、経営層の4人に1人は後ろ向きという結果に。
ただし、就活層にとって、男性育休の充実度は経営層が考える以上に影響力が大きいようです。
男性育休取得と仕事のやりがい
Q男性育休は仕事に好影響を与える?
Yes
取得経験あり
Q現在、仕事にポジティブに取り組めている?
Yes
取得経験あり
男性の育休取得は本人の仕事にも好影響をもたらし、前向きに取り組めるようになる良いきっかけとなるのかもしれません。
調査概要
- ◼️実施時期
- 2021年6月10日〜6月12日
- ◼️調査手法
- インターネット調査
- ◼️調査対象条件
-
- ①経営層...従業員10人以上の企業の経営者・役員(200人)、部長層(200人)の男女 計400人
- ②就活層...就活中の20代男女(各200人) 計400人
- ③一般層...20代〜60代、各年代の一般生活者男女(各200人)計2,000人 合計2,800人
※構成比(%)は小数点第2位以下を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります
安藤哲也(あんどう・てつや)
1962年生。二男一女の父親。出版社、書店、IT企業など9回の転職を経て、2006年に父親支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立し代表に。「笑っている父親を増やしたい」と講演や企業向けセミナー、絵本読み聞かせなどで全国を歩く。最近は、「イクボス」の養成で企業・自治体での研修も多い。厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」、内閣府「男女共同参画推進連携会議」、東京都「子育て応援とうきょう会議」、「にっぽん子育て応援団」等の委員も務める。著書に『パパの極意~仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『パパ1年生~生まれて切れてありがとう』(かんき出版)、『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパになれた理由」』(廣済堂出版)、『できるリーダーはなぜメールが短いのか』(青春出版社)等。
男性の育休取得率が12%を超えました。私が当団体を立ち上げた頃、男性の育休はかなりレアでしたから、当事者も経営層も、社会全体の育休への意識が大きく変わってきています。とはいえ、今回の調査結果にもあるように「取らせてあげたいが実際は難しい」という意見も根強いです。人手が足りないことが主な要因となっていますが、どうしたら推進できるのでしょうか。それぞれが複数のスキルを身に着けて他の人の代替になれる多能工化を推進してみるとか、ムダな会議や資料づくりなどの時間泥棒を見直し定時にみんなが退社できるようにするとか、日々の積み重ねから育休取得のハードルはぐっと下がるはずです。それは、育休の取りやすい職場であるだけでなく、ダイバーシティの観点から多くの従業員が働きやすい職場となるのではないでしょうか。
これからの父親像は、働きやすい職場で、仕事に加えて家事・育児を楽しみ、子どものロールモデルとなるような「しなやかな父性を携えた父親」だと考えています。父親には、昨今のコロナ禍で家族と過ごす時間が増えたことをチャンスと捉え、家庭での経験を豊かにしてほしいです。そして企業は、そういった従業員の経験を活かし、生産性の向上やリクルーティングにつなげていく。男性育休推進は企業の成長戦略の一環です。社会変革のため、目先の損得で決めず、長期的な視点を持って取り組むことが重要です。
男性育休白書で浮かび上がる今どきの「男性の家事・育児力」
治部れんげ(じぶ・れんげ)
1997年一橋大学法学部卒、日経BP社にて経済誌記者。2006~07年、ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年よりフリージャーナリスト。2018年、一橋大学経営学修士課程修了。メディア・経営・教育とジェンダーやダイバーシティについて執筆。2021年4月より、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員。日本政府主催の国際女性会議WAW!国内アドバイザー。東京都男女平等参画審議会委員。豊島区男女共同参画推進会議会長。公益財団法人ジョイセフ理事。UN Women日本事務所、日本経済新聞社等による「アンステレオタイプアライアンス日本支部」アドバイザー。著書に『ジェンダーで見るヒットドラマ:韓国、アメリカ、欧州、日本』(光文社)、『「男女格差後進国」の衝撃:無意識のジェンダーバイアスを克服する』(小学館)等。2児の母。
調査結果から分かるのは、就活層の多数が男性育休を支持していることです。それを裏付けるのが、男性育休制度が充実していない企業に対する就活層の持つイメージで、「経営層の考え方が古そう」「世の中の動きに対して遅れている」「従業員を大事にしてない」と考える人が半数近くいます。男性育休の拡充が遅れていることが、自社にとってさほどマイナスにならない、と思っている経営層は考えを変えた方がいいでしょう。知っておくべきなのは、優秀な若手は就職先を選ぶことができる、ということ。「古い」と思われてしまうことは、人材獲得競争において致命的な不利につながります。経営層の4人に1人が男性育休に反対という事実は、残念ですが仕方ないことかもしれません。いつの時代も、変化に対応できない人は一定数いるからです。変化に対応できる75%の経営者に率いられる企業が、今後、優秀な人材を集めて革新的な事業を興し、市場をリードしていくのではないでしょうか。
変化に対応できるかどうかは自分と違う価値観、異なる生き方を選ぶ人を受容できるかどうか、に関わってきます。自らと同じ性別、同じような学歴、専門性を持つ若手社員たちが自分と異なるライフスタイルを持つことを受け入れ、支援できるかどうか。男性育休が社会から受け入れられる中、問われているのは、経営者の変化対応能力です。