
僕の家には、時々、
あの頃の自分が遊びにくる。
きっかけは、ハゼだった。
家の前を流れる川で、
息子がハゼを釣って帰ってきた。
青いバケツを覗き込んでいると、
突然、水面に幼い自分が写った。
「このハゼ、前の川で釣ったんだよ!」
そうだ、僕もあの川でハゼを釣ったことがある。
結婚してすぐ、僕は生まれ育った家を父から譲り受け、
すこし悩んで、新しい家を建てることを決めた。
父のように、家族のための家を建てたいと思った。
ただ、古い家が取り壊されていくのを見ながら、
何も感じなかったと言えば嘘になる。
記憶まで失われてしまう寂しさに、
気づかないフリをしながら、
黄色いショベルが家を崩していくのをじっと見つめていた。
そんな僕の前に幼い自分が現れるようになったのは、
新しい家に住み始めて、ちょうど半年ほど経った頃だった。
「自転車で河口まで行ってみるんだ」
朝食を終えると、今日も釣り竿を背負った息子が、
嬉々として玄関を飛び出していった。
2階の窓から手を振ると、
その横に、自転車に跨る小さな僕の姿が見えた。
そういえば、僕も河口まで行ったことがあった。
あの日、気がつくと辺りがすっかり暗くなっていて、
暗闇の中、焦りながらペダルを踏んだ。
自転車のライトの先に、
迎えにきてくれた父の姿が見えたとき、
ほっとして、涙が込み上げてきたのを覚えている。
父が家を建てる前、
この場所には祖父の家が建っていたらしい。
あの頃、父も幼い自分と再会していたのだろうか。
思い出は、そうやって家族の中を巡っているのかもしれない。
日が落ちてきたら、迎えに行ってあげよう。
僕は、遠ざかっていく息子と幼い自分の背中を、
見えなくなるまで見送った。
きっかけは、ハゼだった。
家の前を流れる川で、
息子がハゼを釣って帰ってきた。
青いバケツを覗き込んでいると、
突然、水面に幼い自分が写った。
「このハゼ、前の川で釣ったんだよ!」
そうだ、僕もあの川でハゼを釣ったことがある。
結婚してすぐ、僕は生まれ育った家を父から譲り受け、すこし悩んで、新しい家を建てることを決めた。
父のように、家族のための家を建てたいと思った。
ただ、古い家が取り壊されていくのを見ながら、何も感じなかったと言えば嘘になる。
記憶まで失われてしまう寂しさに、気づかないフリをしながら、黄色いショベルが家を崩していくのをじっと見つめていた。
そんな僕の前に幼い自分が現れるようになったのは、新しい家に住み始めて、ちょうど半年ほど経った頃だった。
「自転車で河口まで行ってみるんだ」
朝食を終えると、今日も釣り竿を背負った息子が、嬉々として玄関を飛び出していった。
2階の窓から手を振ると、その横に、自転車に跨る小さな僕の姿が見えた。
そういえば、僕も河口まで行ったことがあった。
あの日、気がつくと辺りがすっかり暗くなっていて、暗闇の中、焦りながらペダルを踏んだ。
自転車のライトの先に、迎えにきてくれた父の姿が見えたとき、ほっとして、涙が込み上げてきたのを覚えている。
父が家を建てる前、この場所には祖父の家が建っていたらしい。
あの頃、父も幼い自分と再会していたのだろうか。
思い出は、そうやって家族の中を巡っているのかもしれない。
日が落ちてきたら、迎えに行ってあげよう。
僕は、遠ざかっていく息子と幼い自分の背中を、
見えなくなるまで見送った。

