
声安藤サクラ
僕の行きつけの美容室は
わが家の中にある。
10年前に建てたこの家には
一階に妻の営む美容室があって、
子どもたちも僕も、月に一度はこうして鏡の前に座る。
「すこし伸びたわね」とか
「あの子、習い事したいみたい」とか
「今日の夜はなに食べたい」とか
最近は少なくなった会話も
ここに座ると自然といつもより弾む。
ハサミの音を聞きながら鏡に写る妻を見ていると
時々、あの日のことを思い出す。
ふらりと入った美容室で僕はこの景色に出会った。
その人は随分楽しそうに髪を切る人で、
その横顔を眺めていると、時折目が合って
僕はその度に恥ずかしくなって目をそらした。
「この家のこと、気に入ってる?」
いつか聞いてみたいなと思っているけれど
いつもやっぱりいいか、とやめてしまう。
こうして鏡の中の楽しそうな君を見ていると
それだけで、僕はもう十分に満たされてしまうから。
10年前に建てたこの家には
一階に妻の営む美容室があって、
子どもたちも僕も、月に一度はこうして鏡の前に座る。
「すこし伸びたわね」とか
「あの子、習い事したいみたい」とか
「今日の夜はなに食べたい」とか
最近は少なくなった会話も
ここに座ると自然といつもより弾む。
ハサミの音を聞きながら鏡に写る妻を見ていると
時々、あの日のことを思い出す。
ふらりと入った美容室で僕はこの景色に出会った。
その人は随分楽しそうに髪を切る人で、その横顔を眺めていると、時折目が合って僕はその度に恥ずかしくなって目をそらした。
「この家のこと、気に入ってる?」
いつか聞いてみたいなと思っているけれど
いつもやっぱりいいか、とやめてしまう。
こうして鏡の中の楽しそうな君を見ていると
それだけで、僕はもう十分に満たされてしまうから。

行きつけの美容室
声安藤サクラ
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家から生まれた物語
声:安藤サクラ
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物語を生んだ家
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