トップコミットメント 代表取締役会長 阿部 俊則

社会のために、次世代のために
気候変動に最も敏感な企業として

積水ハウスグループが、今、しなければならないこと

社会課題と向き合う住宅の役割、果たすべき使命

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によりお亡くなりになった方々に謹んでお悔やみ申し上げます。そして、罹患された方々および感染拡大により生活に影響を受けているすべての皆様に心よりお見舞い申し上げます。また、過酷な状況下において活動されている医療従事者をはじめ、生活必需品の供給に携わられている方々のご尽力に感謝申し上げます。
積水ハウスグループでは、お客様、お取引先様、関係者の皆様、そして社員の安全を最優先とし、所管保健所、自治体などと連携を図りながら、感染拡大の抑止のために必要な対応・対策を進めています。
2020年、日本を巻き込む世界の政治経済、また社会そのものの構造にとって、さまざまな意味で大きな転換点になる年だと思われていました。そうした中、世界に突き付けられたのは新型コロナウイルスの脅威です。この脅威は、今後の社会生活、経済活動にどのような影響を与えるか計り知れません。社会生活のあり方は、感染拡大防止策の一環として要請された外出自粛等による社会活動の変化等、新たな営みが求められることとなりました。一方で、世界各地 で多発する大規模自然災害、気候変動への対策も急がれます。想像を超えたカタチで時代の大転換点になる2020年。
直面するウイルス対策に全力を注ぐことはもちろん、家のあり方、お客様との関係、私たちのあらゆる活動を根本から見つめ直す必要があると考えています。
これまで住宅建設の経済波及効果について、多くの側面から語られてきました。さらに、耐震性などの防災機能、人の命や健康とのかかわりという課題に目を向けると、住宅産業の使命、存在感が新たな角度からますます増大するはずです。住宅の本質は、景気対策と同時に、国民福祉の向上につながる「幸福支援」でもあるといえます。国民の安全・安心、幸せを守り、社会の財産としての良質な住宅建設が、税制や景気動向によって減速させられたりするようなことがあってはなりません。次世代に受け継がれていく「良い住まいづくり」を加速させるという考えに基づいた国の施策は、これまで以上に重要になります。
一方、世界各国が危機感を持つ気候変動と住宅の関係も密接です。「パリ協定」が発効し、脱炭素社会に向けた長期シナリオが示される中、積水ハウスグループは、気候変動が財務に及ぼす影響の開示を求める気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に、2018年にいち早く賛同。2019年12月、国内の賛同企業・機関のうち、非金融企業141社のトップを切って、そのリスクと機会を財務情報とともに公開するTCFDレポートを発行しました。
「持続可能性」を経営の基軸に据える積水ハウスは、1999年に「環境未来計画」を発表し、2008年にすべての住宅のライフサイクル全体においてCO2排出量ゼロを目指す「2050年ビジョン」を宣言。脱炭素経営実現へ具体的なアクションを積み重ねています。2017年には、事業活動で使用する電力を100%
再生可能エネルギー

再生可能エネルギー

太陽光、風力、雨水、潮の干満、波など、利用しても自然に元に戻ると考えられる、再生可能な資源から集められたエネルギー。

にすることを目指す「RE100」に加盟しました。現在、
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)

ZEH

Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略)。住まいの高断熱化と高効率設備の導入による省エネと太陽光発電などの創エネにより、年間の一次エネルギー消費量の差引ゼロを目指す住宅。日本政府のエネルギー基本計画では家庭部門の温暖化対策のひとつとして位置付けられています。2030年までに新築住宅の平均でZEHを目指すという目標も設定され、取り組みが進められています。

は新築戸建住宅の87%を占め、累積棟数は世界一、5万1793棟となりました。環境経営の先駆者として「脱炭素」という理想の実現に挑み続ける理由があります。それは住宅が、お客様の生涯に寄り添う寿命の長い商品だからです。事業を健全に発展させ、利益成長を続けることが、当社の最大の使命です。世界一の顧客基盤を持つ積水ハウスは、事業継続性を阻害する気候変動に最も敏感な企業として、さらなる施策を打ち出し続ける決意です。
2年前、ポーランドのカトヴィツェで開催された COP24に参加し、各国の再エネ発電の現状などを見て「日本は遅れている」と実感しました。その実情は、昨年のCOP25で日本が不名誉な化石賞を受賞した報道などにより、ようやく広く認識されるようになってきました。世界の中の日本であり、その中で住宅産業を担う私たちが果たすべき責任と役割があります。積水ハウスグループは、世界の人々と危機感を共有し、住まいづくりを通じて日本の環境意識をより高めていきます。「脱炭素生活」を実現するという観点から、新たな技術開発、価値提案にまい進します。

安全・安心 -増大する住宅産業の存在感-

阪神・淡路大震災から25年。私自身が出張先の仙台で経験した東日本大震災からも、来年で10年。私たちは、あの大災害の経験と教訓を、改めて心に留めておく必要があります。
いつどこで発生してもおかしくない自然災害ですが、日本の防災意識は高まり、積水ハウスの制震システム「シーカス」をはじめ、新築住宅の耐震性能も格段に向上しています。しかし、ここで重要なことは、震度6強~7程度でも倒壊しない構造基準「新耐震基準」を満たしていない住宅が、日本にはまだ約900万戸も存在するという事実です。その改善・解消は重大な社会課題の一つです。私たち住宅産業に課せられた大きな使命でもあります。
また、住宅の「省エネルギー基準」に目を移すと、全住宅の半数近くの約2200万戸が、その数値に達していないというデータがあります。住宅の省エネ性能向上は、国家レベルの喫緊の課題といわれています。さらに、断熱・気密性能はエネルギー消費という観点に加えて、住む人の命、健康にかかわるという視点も見逃せません。冬の寒い時期、家の中の急激な温度差が引き起こすヒートショックなどの健康障害や、近年では夏の熱中症もクローズアップされています。「夏涼しく、冬暖かい」冷暖房効率が高い快適な住まいの普及は、耐震化率向上とともに良質なストックや住環境の実現への根源的な問題であるといえます。
住まいや住宅産業に求められる役割が、ますます高度化・多様化しています。1970年代からバリアフリー化の研究、実践に取り組んできた積水ハウスは、現在、五感に響く「心地よさ」にまで配慮した独自の「スマートUD(ユニバーサルデザイン)」を推進し、さらなる進化を目指しています。また、積水ハウスグループが先導する既存住宅流通システム「スムストック」は、住宅についてストック型社会への変換のカギを握る取り組みです。

for you-社会のために課題解決、目標達成を-

おかげさまで積水ハウスは、創立60周年の記念すべき年を、業績が順調に推移する中で迎えることができました。リーマンショックの影響により、厳しい経営環境にあった創立50周年から10年、思い切った構造改革を推し進めてきた結果です。その柱となった施策の一つに「グループ連携の強化」があります。グループ間の垣根を取り払う組織改革、リフォーム事業の強化です。2020年2月には、積和不動産を積水ハウス不動産として再編し、積水ハウスのセカンドブランドの新築木造住宅を販売する「SEKISUI HOUSE noie」も誕生しました。
グループ全体の「多様なチカラ」、その結束力・総合力により、“住”関連ビジネスを基軸に社会との接点は多面的に拡大しました。さらに、連携強化からグループの一体化へ。それに伴い、当社の社会的責任はより重くなり、責任の範囲も広がる一方です。
積水ハウスグループは、新たな時代に進みます。第5次中期経営計画では「コアビジネスのさらなる深化と新規事業への挑戦」を基本方針に掲げました。また2018年、6項目から着手したガバナンス改革についても、さらなる深化を図ります。2020年からは、「役員報酬制度の抜本的な見直し」「経営陣幹部の選解任基準・手続き方法の策定」「取締役会の独立性向上」など7項目を加え、合計17項目に着手・実施してきましたが、さらなるガバナンス改革に取り組むと同時に、導入したさまざまな制度改革の内容が組織改革へ反映されるよう、一歩ずつ着実に進めていきます。今後もトップマネジメント、事業マネジメントの両輪で組織風土の醸成に注力し、海外を含めたグループガバナンス体制を強化していきます。
企業のリーダーの仕事は、利益の追求とともに、次世代のリーダーを育成し、社員と社会を豊かにすることです。社員が働きやすい環境を整えること、すなわち積水ハウスグループが進める「わくわく ドキドキ 心躍る職場づくり」です。こうした取り組みの足し算、かけ算で、すべてのステークホルダーに信頼される「グッドカンパニー」になる。それが私の理想です。
そのために求められる心のあり方は、“for me”ではなく“for you”です。社員にも繰り返し話しています。世界共通の目標である
SDGs

SDGs

2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略。2030年までに、環境破壊、人権配慮や貧困解消など世界で解決すべき目標を示したもので、17の目標と169のターゲットで構成されている。持続可能な社会の実現に向けて、国や自治体だけでなく、企業の役割と関与の重要性を初めて明確に示した点が特徴。

達成に向けて必要なのも“for you”の精神です。社会の課題解決は、決して一社で達成できるもの ではなく、企業間や社会との連携が不可欠です。企業も自己中心ではなく、社会に生かされる企業として、他を思いやる気持ちで乗り越えていかなければなりません。積水ハウスグループの企業理念の根本哲学「人間愛」も意味するところは同じです。人間性豊かな住まいと環境の創造へ。私たちにできることを、謙虚に、愚直に行い、これからもグループ全体が心を一つに、広く世界にも目を向けた挑戦を続けます。